遺産分割前に売った遺産の一部は、遺産分割の対象になりますか?

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掲載日:2019年7月11日|最終更新日:2019年7月11日

原則として遺産分割の対象にはなりませんが、相続人全員の合意(遺産分割の対象に含めることの合意)がある場合には、遺産分割の対象財産にすることができます。

また、以下の要件を満たす場合には、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができます(平成30年改正民法)。

  • ①処分された財産が、相続開始時に被相続人の遺産に属していたこと
  • ②財産が処分されたこと
  • ③共同相続人全員が、当該処分された財産の遺産分割の対象に含めることに同意していること

 

以下の具体例を使い、詳しく解説していきます。

具体例

被相続人Aが死亡し、配偶者B、子C、子Dが相続人となった。

被相続人は、遺産として不動産甲(時価400万円)と預金 600万円を残していた。

BCDは遺産の一つである不動産甲をEに 400万円で売却し、売買代金をBが受領することになった。

その後、Bが売買代金を使い切ってしまった。

売却代金も含めた遺産分割ができるのか

実務上遺産分割の対象となる遺産とは、「相続開始時に存在し」かつ「分割時にも存在」する「未分割」の遺産をいいます。

被相続人Aが死亡した時点で、不動産甲は遺産として存在しているので、「相続開始時に存在」している遺産です。

しかし、遺産分割をする時点で不動産甲はすでに売却されているので、「分割時にも存在」している遺産とはいえません。

また、不動産甲の売却代金も、遺産の価値が変形したものですが、「相続開始時に存在」していたものではないので、原則として遺産分割の対象となる財産にはなりません。

判例も、相続開始後から遺産分割までの間に、遺産の価値が変わっている代償財産については、原則として遺産分割の対象にならないとしています。

判例① 最判昭和52年9月19日(家月30巻2号110頁)

「共同相続人が全員の合意によつて遺産分割前に遺産を構成する特定不動産を第三者に売却したときは、その不動産は遺産分割の対象から逸出し、各相続人は第三者に対し持分に応じた代償債権を取得し、これをここに請求することができるものと解すべき」


判例② 最判昭和54年2月22日(家月32巻1号149頁)

「共有持分権を有する共同相続人全員によつて他に売却された右各土地は遺産分割の対象たる相続財産から逸出するとともに、その売却代金は、これを一括して共同相続人の一人に保管させて遺産分割の対象に含める合意をするなどの特別の事情のない限り、相続財産には加えられず、共同相続人が各持分に応じて個々にこれを分割取得すべきものである」

以上のように参考判例を見ると、相続人全員の合意があるといった特別な事情がある時には、代償財産である売却代金相続財産に含めることができると見ることができます。

また、平成30年民法改正(平成31年7月施行)により、

  • ①処分された財産が、相続開始時に被相続人の遺産に属していたこと
  • ②財産が処分されたこと
  • ③共同相続人全員が、当該処分された財産の遺産分割の対象に含めることに同意していること

の要件を満たす場合には、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができることになりました。

▼詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

次に、売却代金を相続財産に含めた場合と含めない場合を見ていきます。

具体例

Aの遺産:不動産甲(時価 400万円)、預金 600万円

相続人:配偶者B、子C、子D

法定相続分:Bが2分の1、CとDがそれぞれ4分の1


 

相続財産に含めるとの合意がある場合

この場合、不動産甲の売却代金 400万円も相続財産ということになります。

相続財産:600万円 + 400万円 = 1000万円

この時の法定相続分の額としては

配偶者B:1000万円 × 2分の1 = 500万円

子C:1000万円 × 4分の1 = 250万円

子D:1000万円 × 4分の1 = 250万円

というようになりますが、Bは、相続財産に含めた売却代金 400万円をすでに消費してしまっているので、400万円をすでに受け取っていると考えられます。

そこで、現在残っている預金の分け方としては、

配偶者B:500万円 − 400万円 = 100万円

子C:250万円

子D:250万円

という形での分割がされることになります。

結 果

配偶者Bが 100万円、子Cと子Dは 250万円ずつ受け取る。

 

 

相続財産に入れない場合

相続財産から逸出した場合には、原則として、各持分である法定相続分により分割取得することになります。

相続財産:600万円(預金のみ)

これを法定相続分で分けると、以下のようになります。

配偶者B:600万円 × 2分の1 = 300万円

子C:600万円 × 4分の1 = 150万円

子D:600万円 × 4分の1 = 150万円

売却代金 400万円については、共同相続人の各持分で分けられるということになりますので、

配偶者B:400万円 × 2分の1 = 200万円

子C:400万円 × 4分の1 = 100万円

子D:400万円 × 4分の1 = 100万円

を取得できるということになります。

最終的に獲得できる金額は以下のとおりです。

配偶者B:300万円 + 200万円 = 500万円

子C:150万円 + 100万円 = 250万円

子D:150万円 + 100万円 = 250万円

結 果

不動産甲の売却代金を相続財産に含めるとの合意をした場合と、変わりはない。 

 

しかし、売却代金はすでにBが受け取り消費してしまっているので、CとDは、Bに対して、改めて各人に 100万円の金額を支払うように請求しなければなりません。

もしBに支払い能力がない場合には、100万円を受け取ることができないといった事態も起こりうるので、その点では、事実上獲得できる額に差が発生する可能性があります。

 

 

他の相続人に特別受益がある場合は?

他の相続人に特別受益がある場合には、相続財産から逸出することで不平等な分け方になることもあるので注意が必要です。

例えば、上記具体例に加えて、特別受益としてAがDに生前(死亡時の10年以内)に 500万円を贈与していた場合を考えてみましょう。

具体例 特別受益として被相続人Aが子Dに、生前に 500万円を贈与していた場合

Aの遺産:不動産甲(時価 400万円)、預金(600万円)

相続人:配偶者B、子C、子D※生前贈与(500万円)

法定相続分:Bが2分の1、CとDがそれぞれ4分の1


 

相続財産に含めるとの合意がある場合

相続財産は、預金、不動産甲の売却代金、生前の贈与の合計となります。

相続財産:600万円 + 400万円 + 500万円 = 1500万円

法定相続分で分配する場合の分配額は、

配偶者B:1500万円 × 2分の1 = 750万円

子C:1500万円 × 4分の1 = 375万円

子D:1500万円 × 4分の1 = 375万円

となります。

Dも生前に 500万円を取得しているので、現存している財産の分け方としての計算上の価額は、

配偶者B:1000万円 × 3分の2 = 666万6666円

子C:1000万円 × 3分の1 = 333万3333円

子D:法定相続分を超える額を取得しているので0円

となります。

Bの割合が3分の2、Cの割合が3分の1となっているのは、法定相続分を超える特別受益を得ている相続人がいる場合には、その相続人を除いた法定相続分の割合によって分けられるためです。

今回の場合には、Bの法定相続分2分の1と、Cの法定相続分4分の1の比率はB:C=2:1となるので、Bが3分の2、Cが3分の1ということになります。

またBはすでに売却代金 400万円を取得しているので、最終的に残っている預金の財産の分け方は以下のとおりです。

配偶者B:666万6666円 − 400万円 = 266万6666円

子C:333万3333円

子D:法定相続分を超える額を取得しているので 0円

結 果

配偶者Bが約266万円、子Cは約333万円受け取る。子Dは 0円。

 

 

相続財産に入れない場合

この場合には、500万円が特別受益と考えられます。

相続財産:600万円 + 500万円= 1100万円

これを法定相続分で分けると、

配偶者B:1100万円 × 2分の1 = 550万円

子C:1100万円 × 4分の1 = 275万円

子D:1100万円 × 4分の1 = 275万円

となりますが、Dはすでに生前に 500万円をもらっています。

そこで、現存している財産の分け方としての計算上の価額は、

配偶者B:600万円 × 3分の2 = 400万円

子C:600万円 × 3分の1 = 200万円

子D:法定相続分を超える額を取得しているので 0円

となります。

それに加え、売却代金の 400万円については法定相続分によって分けられることになるので、

不動産甲の売却代金は、以下の形で分けられることとなります。

配偶者B:400万円 × 2分の1 = 200万円

子C:400万円 × 4分の1 = 100万円

子D:400万円 × 4分の1 = 100万円

よって、CとDは、Bに対してそれぞれ 100万円ずつ請求することができることになります。

結 果

配偶者Bが 600万円、子Cは 300万円、子Dは 100万円受け取る。

このように、同じ財産の分け方であるのに、最終的に獲得できる財産額に違いがあります。

特別受益を受けている相続人がいる場合で、相続財産から逸出したものがある場合には、逸出した額についての法定相続分に相当する額が上乗せして分けられる結果となるため、不平等な財産の分け方となる可能性があるということになります。

勝手に売却された場合は?

もし、Bが、勝手に不動産甲の名義を単独名義にした上で、不動産甲をEに売却した場合はどうなるでしょうか。

相続人全員の合意があるときには、その売却代金を相続財産に組み込んで解決することも可能であるといえます。

不動産また、平成30年改正民法により、各要件を満たす場合には、売却代金を遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができるので、相続財産に組み込んで解決することが可能になります。

相続人全員の合意がない場合には、不動産甲の売却代金は相続財産から逸出することになります

持分に相当する額を請求する場合には、最終的には、CやDの持分権の侵害があったとして、Bに対して不法行為に基づく損害賠償請求をすることや、不当利得返還請求で解決していくことになるでしょう。

そのほかには買主であるEに対して共有持分を主張して持分を対抗し、法定相続分の割合の共有登記をすることが考えられます。

その場合の共有の解消は、Eや他の共有持分権者に対して共有物分割請求をすることで解消していくことになるでしょう。

 

相続にまつわる問題は、法的な知識を要する部分が多く、計算方法も含めて複雑になりやすい分野ですので、専門家に相談することをお勧めします。

 

 

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