土地の境界・通行を合意する場合の遺産分割協議はどうすればいいですか?


執筆者:弁護士宮崎晃

土地などの遺産分割協議について質問です。 土地などの遺産分割協議について質問です。
私は福岡市西区に住む者です。

先日、父が亡くなりました。

相続人は、私の母であるAのほか、私(長男)B、妹(長女)Cの3人です。

父の遺産は、以下のとおりです。

    • 甲土地:時価500万円
    • 預貯金:4000万円
    • 株式(上場会社):50株(時価100万円)

    甲土地については、妹が取得を希望しています。妹は結婚しており、近い将来、この土地に家を立てたいようです。

    私も母も甲土地についての取得は希望していません。

    ただ、1点心配なことがあります。私は甲土地のすぐ隣に自宅(乙土地と建物)があり、自宅敷地が袋地であるため甲土地を通行して道路に出ています。

    そのため、妹が甲土地を取得しても、これまで通り甲土地を通行したいと考えています。

    また、甲土地と乙土地との境界が不明確となっているので、これを明確にしたいと考えております。

    このような場合に遺産分割協議を行うことは可能でしょうか?

 

 

他の土地の通行権が認められるか?

民法は、公道に至るための他の土地の通行権について、次のとおり規定しています。

判例 第210条

1項:他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。
2項:池沼、河川、水路若しくは海を通らなければ公道に至ることができないとき、又は崖がけがあって土地と公道とに著しい高低差があるときも、前項と同様とする。

判例 第211条

1項:前条の場合には、通行の場所及び方法は、同条の規定による通行権を有する者のために必要であり、かつ、他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
2項:前条の規定による通行権を有する者は、必要があるときは、通路を開設することができる。

判例第212条

第210条の規定による通行権を有する者は、その通行する他の土地の損害に対して償金を支払わなければならない。ただし、通路の開設のために生じた損害に対するものを除き、1年ごとにその償金を支払うことができる。

袋地通行権(不動産業界等では「囲繞地通行権」とも呼ばれています。)は、社会経済的に袋地の効用を全うさせるものであり、上記のとおり、法律上当然に認められるものです。

そのため、仮に、隣地所有者が通行を拒否しても、通行自体は可能です。

弁護士しかし、他方で、袋地通行権は、隣地所有者のプライバシーを侵害する可能性があり、場合によっては損害を与えかねません。

そのため、通行の場所及び方法は、必要最小限でなければなりません。

この通行の場所や方法について、将来、トラブルの発生が懸念されます。

そこで、遺産分割協議において、しっかりと話し合い、協議書の中に記載しておいた方がよいといえるでしょう。

 

 

境界を確定するにはどうすればいい?

カレンダーのイメージイラスト土地の境界(公法上の境界を筆界(ひっかい)ともいいます。)について争いがある場合、昔は裁判(「境界確定訴訟」といいます。)によるしか方法がありませんでした。

しかし、裁判は、長年月を要することが一般的です。

また、弁護士に依頼するのが通常なので弁護士費用等も要します。

簡易迅速に、かつ、市民の負担を減少させるために、2005年に不動産登記法等の法律が改正され、「筆界特定制度」が創設されました。

筆界特定制度とは
筆界特定制度とは、各地の法務局長が専門家を筆界調査委員に任命し、境界紛争の当事者から申請があった場合、法務局の筆界特定登記官が筆界調査委員の意見を参考にしながら境界を特定するというものです。

なお、筆界特定の手続において、土地の所有者等は、意見を述べたり、資料を提出することが可能です。

筆界特定の結果は、申請人に通知されるとともに、その記録は登記所にて公開されます。

ただし、筆界に争いがある場合、筆界特定制度を利用するか否かは当事者の選択に委ねられています。

すなわち、筆界特定の手続を経ることなく、従来どおり境界確定訴訟を選択することも可能です。

また、先に筆界特定がされた場合でも、境界確定訴訟を提起でき、その裁判で判決が確定したときは、先に実施した筆界特定は、判決と抵触する範囲において効力を失います。

このように、境界を確定する制度としては、境界確定訴訟と、筆界特定制度の2つがありますが、筆界特定制度の方が負担が少ないこと、また、相談事例では当事者間が対立していないことなどから、筆界特定制度の利用がよいと考えられます。

 

 

遺産分割協議書の記載例

では、具体的に、どのような遺産分割協議書を作成すればよいのか、以下では今回のケースの例を示します。

【土地の境界・通行を合意する場合の遺産分割協議書】

◯◯銀行 ◯◯支店 普通 口座番号◯◯◯◯  2000万円(相続開始日の残高)
△△銀行 ◯◯支店 普通 口座番号◯◯◯◯  2000万円(相続開始日の残高)
□株式会社 普通株式 50株

第◯条 Aは、前条記載の遺産を取得する代償として、各相続人に次の価額の債務を負担することとし、それぞれの指定する口座に◯年◯月◯日限り、振り込む方法により支払うものとする。振込手数料はAの負担とする。
Bに対し、金1150万円
Cに対し、金650万円

第◯条
Cは、別紙遺産目録1記載の不動産(以下「甲土地」という。)を取得する。

第◯条
B及びCは、Cが甲土地を取得した結果、その土地と隣接するB所有の別紙不動産目録1記載の土地(以下「乙土地」という。)との境界を明確にする必要があることから、筆界特定制度により両土地の筆界を特定することに合意する。筆界特定制度に要する費用はB及びCの折半とする。

第◯条
Cは、Bが乙土地から公道に至るまで甲土地を通行する必要があることから、甲土地を通行することを認める。B及びCは、その通行の方法、範囲等について、別途合意書をもって定める。

遺産分割協議の書式のダウンロードはこちらからどうぞ。

 

 

土地の境界・通行を合意する場合の遺産分割協議書のポイント

境界について
境界について、特定方法を明示しておくことで、後々、裁判になるリスクを減少しています。

袋地通行権について
甲土地取得にあたって、袋地通行権を認める旨明記することで、後日のトラブルを防止しています。
また、通行方法等の詳細については別途合意書による旨明示しています。

代償分割について
本件では、それぞれの法定相続分は、Aさん2300万円、Bさん1150万円、Cさん1150万円となります。

A:4600万円 ✕ 1/2 = 2300万円

BとC:4600万円 ✕ 1/4 = 1150万円

サンプルでは、各相続人の取得する遺産の価額が上記の法定相続分どおりとなるようにしています。

金融資産について、Aに集中させているのは、手続の円滑化のためです。

例えば、相続人間の話合いで、銀行預金を法定相続分どおりに、分割割合を決めた場合、遺産分割協議書だけでなく、金融機関の所定の書類にも、AからCさん全員の署名捺印を求められるのが一般的です。

そのため、大変な手間暇を要することとなります。

そこで、Aさんに金融資産を集中して相続させ、そのかわりにBさんとCさんに代償金を支払うという分割協議にしています。

遺産分割協議書作成については、相続問題に詳しい弁護士にご相談の上、進めていかれることをおすすめします。

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なぜ弁護士に相談すべき?