特別受益の持戻し免除の意思表示の推定規定は適用される?

相続


掲載日:2019年9月11日|最終更新日:2019年9月11日

持戻し免除についての質問です。

40年以上連れ添った夫Aが令和1年10月に死亡し、自筆証書遺言に「自宅は、妻のBに相続させる」とだけ書いてありました。

相続人は、私と前妻の子どものCだけなのですが、Cに遺言の存在を伝えたところ、「Bが自宅を取得することはやむを得ないと思っているが、自宅をもらうとそれが特別受益になってBの取得分はないので、それ以外の遺産は自分がもらうことになる。」と言われました。

不動産は3000万円の価値らしく、預貯金も同じく3000万円ありました。私もすべての遺産をほしいとは思いませんが、せめて預貯金の一部はもらわないと生活がしていけないので、預貯金の一部はいただきたいと思っており、知人に相談したところ、民法の改正でこういう場合の特別受益の持戻し免除の意思表示の推定規定というのがあると聞きました。

私の場合は、その規定の適用はあるのでしょうか。

特別受益の持戻し免除の意思表示の推定規定は、「遺贈又は贈与」に限定されており、「相続させる」旨の遺言は遺贈ではなく遺産分割方法の指定と解されていますので、基本的には推定規定は適用されないと解されます。

そのため、原則としては、Bは不動産を 3000万円取得しているので、残りの 3000万円の預貯金はCがすべて遺産分割により取得することになります。

もっとも、「相続させる」旨の遺言であっても、その実質は「遺贈」と解することができる場合には推定規定を適用できる可能性はありますし、その他の遺言の文言や経緯等から、不動産以外は法定相続分で分割することを遺言者が意図していると解される場合には、3000万円の預貯金を法定相続分である2分の1ずつ分けるということになる可能性はあります。

 

「相続させる」旨の遺言

「相続させる」旨の遺言というのは、民法というより、実務や裁判例によって認められた遺言の文言で、その法的性質は「遺産分割方法の指定」と解されています。

そのため、遺贈などとは別物であり、登記手続きが簡便であるなどの理由から実務ではよく利用されている文言です。

 

 

特別受益の持戻免除の意思表示の推定規定

概要

平成30年の民法改正により、婚姻期間が20年以上の夫婦間でされた居住用動産の遺贈又は贈与について、特別受益の持戻免除の意思表示が推定されるという規定ができました。

この規定により、生前贈与や遺贈によって配偶者に自宅を取得させた場合で、持戻免除の意思表示が明確にされていない場合であっても、配偶者が自宅以外の遺産を取得できる可能性が高まりました。

もっとも、この規定はあくまで被相続人の意思推定規定なので、その推定が覆る可能性はあります。

そのため、遺された配偶者のためには被相続人が明確に持戻免除の意思表示をするか、遺言をしっかりと書くべきです。

この推定規定の対象は、条文により「遺贈又は贈与」とされています。

そのため、遺贈ではなく遺産分割方法の指定である「相続させる」旨の遺言には基本的には適用がないと解されています。

 

▼民法改正による特別受益の持戻免除の意思表示の推定について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

いつの遺贈又は贈与に適用されるか

この持戻免除の意思表示推定規定は、平成30年の民法改正の施行日である令和元年7月1日以降にされた遺贈又は贈与にのみ適用されると規定されていますので、それ以前の遺贈又は贈与にはそもそも適用がないことには注意をしてください。

 

 

 

本件の当てはめ

原則

本件では、被相続人は令和1年10月に死亡しておりますので、改正後の民法が適用されます。

しかし、Aが配偶者Bに自宅を「相続させる」旨の遺言を残していますが、前述の通り、「相続させる」旨の遺言は、遺産分割方法の指定と解されていることから、持戻免除の意思表示の推定規定の適用はありません。

そのため、本件では、3000万円の不動産を取得しているBさんは、遺産の半分を取得していることになり、預貯金3000万円を取得することはできないことになります。

 

 例 外 ①

「相続させる」旨の遺言であっても、「遺贈」と解すべき事情がある場合には、推定規定が適用される可能性はあります。その場合には、3000万円の不動産について持ち戻す必要がなくなるので、遺産である預貯金 3000万円をBさんとCさんで遺産分割するということになります。


 例 外 ②

「相続させる」旨の遺言を「遺贈」とは解することはできないとしても、長年連れ添った配偶者へ不動産を相続させるのは、それ以外の遺産からの取得分を減らす意図ではなく、むしろ確実に自宅を取得させる意思と考え、遺産分割方法の指定だけではなく、相続分を指定していたのだ、と考えることもできなくはありません。

本件でいうと、3000万円の不動産を遺産分割方法の指定をしただけではなく、Bさんが法定相続分を確保するための相続分として4分の3の相続分の指定があったと解することになり、Bさんも預貯金の2分の1を取得することができることになります。

このような考え方は立法担当者が示唆しており、ありうる考え方ですが、一般論として相続分の指定まであるというのは困難であり、個別の事情からそのような判断ができる場合にのみ適用できる論理だと思われます。

 

 

 

まとめ

平成30年の民法改正のより、本件で紹介した持戻免除の意思表示推定規定をはじめとして配偶者の保護規定が設けられましたが、それはあくまで遺言等の対策をしていなかった場合のセーフティネットと考えるべきです。

配偶者などの遺された遺族を想うのであれば、しっかりと生前の対策をしておくべきですので、法改正後も遺言の作成などの重要性は高いといえます。

遺言書の書き方や保管等についても改正がされましたので、まずは相続を専門とする弁護士にご相談ください。

 

▼民法改正の内容について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

 


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