相続人が債権を譲渡したらどうなる?【弁護士が事例で解説】

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掲載日:2019年7月22日|最終更新日:2019年7月22日

債権の承継については、原則として債務者対抗要件及び第三者対抗要件を備えなければ、債務者や債権の譲受人に対抗することができません。

以下、相談事例をもとに解説します。

 

事例 相談者:被相続人(亡くなった方)の長女(Bさん)

先日、父が亡くなりました。母は父よりも先に他界しております。

相続人は、長男Aと長女の私Bの二人です。

父は生前、「C(債務者)に対する1000万円の貸金債権を長女に相続させる」旨の遺言を作成していました。

ところが、父の死後、私がCさんに1000万円を支払ってもらおうと思い連絡をしたら、Cさんは、Dさんに「500万円を支払ったから、500万円しか払わない。」と回答したのです。

Cさんによれば、長男Aが自分の法定相続分である2分の1の債権をDさんに譲渡しており、そのDさんから500万円支払うように請求されて支払ったとのことでした。

私は、父の遺言のとおりに、1000万円の債権を主張することはできないのでしょうか?

債権を第三者に譲渡した場合の問題点

上記の事例において、父の意思としては、長女Bさんに1000万円の貸金債権を相続させたかったのは明らかです。

したがって、長男Aさんの債権の譲渡は許されないようにも思えます。

しかし、第三者であるDさんは、法定相続人であるAさんから債権の2分の1を譲り受けており、債務者Cさんから500万円を支払ってもらえると期待しているはずです。

いくら遺言があるからと言って、長女BさんがDさんに対して、「遺言と違うからあなたのものにはならない。」などと主張できるとすると、Dさんに酷なようにも思えます。

そこで、このようなケースにおいて、長女Bさんと債権の譲受人Dさんのいずれを保護すべきかが問題となります。

 

 

債権の譲渡に関する従来の考え方

従来、相続による債権の承継については、次のように考えられていました。

  • 「相続させる」旨の遺言については、当該相続人は、法定相続分を超える部分についても、第三者に対抗できる(つまり長女Bさんは、債務者Cさんや譲受人Dさんに対して権利主張できる。)。
  • 特定遺贈の場合(例えば、「Cに対する1000万円の貸金債権を長女に遺贈する」という遺言)、民法467条の対抗要件(遺贈義務者による債務者への通知又は債務者の承諾)を備えなければ、第三者に対抗できない(つまり長女Bさんは権利主張できない。)。

 

 

相続法の改正

本事例では、父は長女Bさんに対して、「C(債務者)に対する 1000万円の貸金債権を長女に相続させる」旨の遺言を作成していました。

従来の考え方では、このような「相続させる遺言」の場合、長女Bさんは、法定相続分を超える貸金債権全額について、保護されることとなります。

しかし、これでは譲受人Dさんが気の毒だと考えられます。

このような問題意識のもと、相続法が改正され、債権の承継においては、「相続させる遺言」の場合を含めて、すべて対抗要件を備えなければ、第三者に対抗できないこととなりました(2019年7月1日施行)。

改正相続法
(共同相続における権利の承継の対抗要件)
第899条の2 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第3者に対抗することができない。
2 前項の権利が債権である場合において、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。

なお、債権の場合の対抗要件については、民法467条に規定されています。

債権の譲渡の対抗要件
第467条  債権の譲渡(現に発生していない債権の譲渡を含む。)は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第3者に対抗することができない。
2  前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第3者に対抗することができない。

上記の債務者対抗要件(債務者に主張するための要件)と第三者対抗要件(債権の譲受人などに主張するための要件)についての法律の規定をまとめると、下表のとおりとなります。

相手方 対抗要件 備考
債務者(C)に対して ①受益相続人(長女)が遺言等の内容を明らかにして債務者(C)に通知
又は
②債務者(C)の承諾
共同相続人全員(長男Aと長女B)が債務者に通知する場合は、法定相続分を超えないため、遺言等の内容を明らかにする必要はない
第三者(D)に対して 上記の「通知」又は「承諾」は、確定日付のある証書によって行う 確定日付のある証書とは、内容証明郵便など

 

 

どうやったら遺言等の内容を明らかにできる?

上表のとおり、債務者に債権の承継を対抗するためには、原則として遺言や遺産分割の内容を明らかにして通知する必要があります。

では、どのような方法であれば、「明らか」といえるでしょうか。

例えば、以下のような方法で明らかになると考えられます。

①長女Bさんが遺言書の原本を提示する。

②自筆証書遺言保管制度を利用している場合、画像情報等証明書を提示する

 

 

事例について

以上から、長女Bさんは、法定相続分の 500万円については、対抗要件を備えなくても、債務者Cさんに請求できます。

しかし、全額請求するためには、第三者Dさんより先に、債務者Cさんに対して、内容証明郵便などで遺言の内容を通知をする必要があります。

また、遺言書の原本の提示などによって、その内容を明らかにする必要があります。

 

 

まとめ

弁護士宮崎晃上記のとおり、長女Cさんは、対抗要件を具備することで、法定相続分を超える権利主張が可能となります。

もっとも、当該通知は、第三者よりも先に行わなければ保護されません。

したがって、迅速に、かつ、的確に通知をすることが必要です。

また、的確に通知を行ったとしても、債務者の方は、法律知識がないのが通常です。

したがって、状況が飲み込めず、貸金を支払ってくれないかもしれません。

債権譲渡は、このような問題があるため、相続に詳しい弁護士に相談しながら、サポートを受けることをおすすめします。

当事務所の相続対策チームは、最新の相続法令を踏まえ、親身になって解決方法をご提案いたします。

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