遺言執行者がいる場合でも、遺産を差し押さえることはできますか?

相続

亡くなった方の遺産の差し押さえについての質問です。

私は友人のBに事業資金としてお金を貸しており、執行認諾文言も入った公正証書も作っていたのですが、結局Bには見るべき財産がなく、ほとんどお金を返してもらっていません。

しかし、Bの父親であるAが死亡して相続人はBとBの兄弟のCだけだそうで、その遺産は預貯金や不動産などがあると聞いています。

そのAの遺産を差し押さえることはできないかと思って、Bに相談したところ、「遺言執行者がいるから差押えはできないはずだ」と言われました。

確かに遺言執行者がいると、勝手に相続人は遺産を処分できないとは聞いていますが、差押えまでできないことになるのでしょうか?

どの遺産を差し押さえるかどうかも含めて、教えてください。

 

 

Aの相続人のBの債権者は、Aの遺産を差し押さえることはできます。

もっとも、預貯金債権を差し押さえても、準共有状態にあるため、払戻し等を受ける場合には、準共有持分者である他の相続人、つまりCの同意が必要になります。

Cが同意しない場合には、取り立てを行うことはできませんので、絵に描いた餅になってしまいかねません。

また、不動産については共有状態にあるため、Bの共有持分権を差し押さえることは可能ですが、現実には競売などをしても共有持分権を買う人はほとんどいないので、やはりCとの話し合いなどが必要になってくるでしょう。

最後に、平成30年の民法改正により創設された遺産分割前の預貯金の払い戻し請求権を差し押さえることも考えられますが、立法担当者はこの制度の趣旨から差押えすらできないと解しているようです。

これらの差し押さえについて、遺言執行者の有無は関係ありませんので、差押え自体が妨げられることはありません。

被相続人の遺産を差し押さえることができるのか

預貯金債権

お金預貯金債権については、平成28年の判例変更まで、相続の開始により自動的に分割されるものとされてきたので、その差押えもできるものと解されてきました。

しかし、現在では預貯金債権は相続人が法定相続分で準共有しているとされているので、相続人の一人の持分のみを差し押さえたとしても、取り立てはできないとされています。

もっとも、相続人全員の持分を差し押さえることができれば取り立てが可能と言われていますが、相続人の債権者の場合、全員分の持分を差し押さえることができる場合はほとんどないでしょう。

また、他の共有持分権者が同意をしてくれれば取り立ては可能ですが、現実には同意を得られることは少ないものと思われます。

本件では、準共有持分権者としてCがいますので、Cの持分も差し押さえるか、Cの同意がない限りは、Bの共有持分を差押えをしても取り立てができないという結論になります。

 

遺産分割前の払い戻し請求権

六法と弁護士バッジ平成30年の民法改正により、遺産分割前に相続人が一定額の預貯金の払い戻しを受けられる権利が創設されました。

この権利は、前記の判例変更によって相続人が預貯金債権を単独行使できないことになったので、葬儀費用や当面の生活費の捻出などが困難になるという不都合を避けるために創設されたものです。

このような趣旨から、相続人の保護のための権利を第三者が差し押さえるのは相当ではなく、差押えはできないものと解されています。

 

不動産の差し押さえ

家不動産については、相続開始時に、法定相続分で共有することになりますが、その共有持分権は相続人が処分できるので、差押えをして持分を競売にかけることは可能です。

もっとも、現実問題として、不動産の共有持分を買う人は少ないものと思われ、仮に購入するとしてもその他の相続人が買う場合か、その他の相続人とともに売却する場合くらいしか想定できないと思われます。

本件では、共有者のCと相談をして、Cに買い取ってもらうか、Cとともに不動産を売却して分けることは可能でしょう。

 

その他の債権の差し押さえ

上記のほか、被相続人が友人に貸していた貸金債権がある場合には、貸金債権などは相続の開始によって自動的に法定相続分で分割されると解されていますので、その貸金債権を差し押さえることができます。

本件でも、Aが貸し付けたものがあれば、Bの法定相続分で差し押さえて取り立てる可能性はあるでしょう。

 

 

遺言執行者がいる場合はどうか

遺言執行者がいる場合には、「相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない」と改正民法1013条1項に規定されていますので、差押えもできないように思えます。

しかし、遺言執行者の有無という債権者のあずかり知らぬ事情によって差押えができないというのは不合理ですので、同条3項で「相続人の債権者が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。」と規定しており、相続人の債権者は、遺言執行者の有無と関係なく差押えができるとされています。

遺言執行者について、詳しくはこちらからどうぞ。

 

 

まとめ

弁護士本件のように、相続人が相続した遺産を差し押さえたいという場合、法的な問題のほか、事実上売却が困難であるなど、現実の問題が生じることがほとんどです。

差し押さえにあたっても、当事者や関係者と話し合い、取り立てや換価の手続をすることが求められますので、まずは専門家である弁護士にご相談ください。

※補足
相続人が相続した被相続人名義の預貯金債権を差し押さえた場合、取り立てができないのはいつまでかというと、遺産分割が終わるまでです。
しかし、遺産分割は長期間を要することも多く、期間制限もないので放置されてしまう可能性すらあります。
そういった場合、差し押さえた側としては、差し押さえた権利の共有物分割の訴訟を提起して取り立てをするしかないと言われています。
もっとも、現実には費用や時間がかかり、現実的ではないと思います。

お金を貸していた人が亡くなった場合の預貯金差し押さえについて、詳しくはこちらからどうぞ。

 

 


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