夫が死んだ後、銀行の口座から生活費を引き出せますか?

その他

故人の預貯金口座についての質問です。

私Bは、夫Aと一緒に暮らしており、Aの年金で生活しております。

Aは、いつも私に決まって生活費をくれるので何も困ってはいないのですが、夫婦のお金はほとんどAの口座にあり、私はAの口座のパスワードを知りません。

もし万が一急にAが死んだ時に、生活費を引き出すことはできるのでしょうか。

私は持病があるので、急に手術が必要になるなどお金が必要になるのではないかと心配しています。

なお、Aの相続人は、私以外に子どものCがいますが、Cとは数年前にケンカをし、それ以来私もAもCに会っていませんので、今どこにいるかもわかりません。

 

 

もしAさんが亡くなった場合、Aさんの死亡を知った銀行などの金融機関はその預貯金口座を凍結するのが通常の扱いであり、もしAさんの口座の凍結を解除するためには、原則として相続人全員の同意が必要になります。

そのため、Aさんがご存命中の間に、Aさんの口座に入っている生活資金の一部をBさんの口座に移したり、遺言を書いておくのがよいでしょう。

生命保険に入り、受取人をBさんとしておくのも一つの方法です。

また、もしそのような手続きをとっている最中にAが亡くなってしまったとしても、遺産のうち一定額を銀行に払い戻すように請求できます。

さらに、その払い戻しを受けた額では賄えないような大きな費用が必要な場合には、仮分割の仮処分というものを利用することが考えられます。

人が死亡すると銀行口座はどうなるか

人が死亡し、死亡の事実を役所等に届出たとしても、銀行に伝わるわけではないので、自動的に銀行口座が凍結されるわけではありません。

相続人などが銀行に口座名義人の死亡を伝えて初めて銀行口座が凍結されることになるのです。

そして、銀行口座が一度凍結されてしまえば、凍結を解除し払い戻しを受けるためには、相続人全員の同意を得なければなりません。

しかし、相続人がどこへ行ったかわからない状態であったり、一部の相続人が非協力的であったりする場合には、長期間払い戻しをしてもらうことができないということになりかねません。

ATMそのため、多くの方は、生前に引き出しをしていたり、被相続人の口座のパスワードを知っているため、被相続人の死後にATMで引き出してこのような不利益を避けてきたという事情があります。

また、一部の銀行では、個別的な事案に対応して、生活費として一部の払い戻しに応じていたということもあるようです。

もっとも、このような上記の扱いは法的な紛争を招くことがほとんどであり、死亡後の引き出しは、他の相続人との関係で不法行為ないし不当利得となってしまい、事案を複雑化ないし長期化することがほとんどです。

そのような不都合を解消するためには、生前に対策をとることが求められますが、現実には対策をしないで亡くなる方が多く、問題が生じていました。

そのため、平成30年に民法が改正され、令和元年7月1日以降は、亡くなった方の口座から相続人が払い戻しを受けられる制度を設けられました。

加えて、従前よりあった制度の要件を緩和するという改正もされております。

以下では、生前の対策と、上記の2つの制度について説明します。

 

 

生前の対策とリスク

別口座にうつしておく

生前の対策については、いくつか考えられますが、一番簡単なのは生活費分を別口座にうつしておく(贈与してもらう)ことでしょう。

この方法は、死後に必要な生活費を予め移しておくことで安心できます。

もっとも、この方法では、後の遺産分割でもめてしまう原因となったり、贈与を受けた人の特別受益となる可能性が高いので贈与を受けた人が死後にもらえる分が減ることになるため、注意が必要です。

 

遺言を書く

手紙次に、遺言を書くことが考えられます。

遺言で預貯金を誰に相続させるか指定しておけば、遺言書だけでその人が銀行口座から払い戻しを受けることができるようになります。

自筆証書遺言を作成する場合には、遺言の形式に不備がないように作成しないと無効とされる可能性がありますし、平成30年の民法改正により導入された法務局の保管の制度を用いない限りは、死後に遺言書の検認という裁判所を用いた手続きが必要となり、払い戻しまで時間を要することがありうという欠点があります。

一方、公正証書遺言であれば問題は生じにくいですが、遺産の額に応じた作成費用がかかり、金銭的な負担が生じることになります。

 

生命保険に入る

保険最後に、生命保険を用いるという手段もあります。

生命保険金は、一般的には長期間かけて保険料を支払っていき、思いもよらない事故などで亡くなった場合の遺族の生活保障に用いることが多いです。

しかし、高齢になっても一時払いで生命保険に入ることで、ほぼ掛け金と同じ額か元本割れの生命保険金しか返ってこないものの、配偶者の当面の生活資金を遺すことができます。

生命保険金は、受取人が迅速に受け取れること、遺産とは異なるもので原則として特別受益には該当しないものであること、相続税について非課税枠があることなど、メリットは多くありますので、対策の一つとして検討しても良いかと思います。

 

 

生前の対策をしていない場合

前述のような生前の対策をしていない場合、遺族の多くの方はATMで引き出すことが多いようですが、後に他の相続人と紛争になる可能性が高いので、おすすめはできません。

銀行に対する払い戻し請求

窓口平成30年の民法改正で創設された制度であり、令和元年7月1日の施行日以後は、相続開始の時期を問わず、銀行に対する預貯金の払い戻しの請求ができることになります。

払い戻しができる額は、「相続開始のときの預貯金債権の額の3分の1 × 払い戻しを求める相続人の法定相続分」の額です。

そして、その上限額は 150万円と定められております。

具体的な額を入れて見てみましょう。

相続人は、配偶者と子ども2人で、相続財産として一つの金融機関に 1500万円の預貯金債権があるとします。

この場合に遺産分割を経ないで、払い戻しを受けられる額はいくらでしょうか。

具体例 配偶者と子ども2人で、相続財産として一つの金融機関に 1500万円の預貯金債権がある場合

【配偶者】1500万円 × 3分の1 × 2分の1 = 250万円

この額は上限額の150万円を超えていますので、上限額の150万円が払い戻しを受けられる額ということになります。

【子ども】1500万円 × 3分の1 × 4分の1 = 125万円

上限額を超えていないので、125万円が払い戻しを受けられる額となります。

払い戻しを受ける際の必要書類について、詳しくはこちらからどうぞ。

 

仮分割の仮処分

銀行への払い戻し請求だけでは資金として足りない場合、家庭裁判所に預貯金債権の仮分割の仮処分を求めることができます。

裁判所この仮分割の仮処分は、申し立てた相続人が預貯金債権を行使する必要性と、他の相続人の利益を害しないかの2つの要件を検討して、家庭裁判所がその可否を判断することになります。

なお、この仮分割の仮処分を求めるにあたっては、それ単体で求めることはできず、遺産分割の調停又は審判が家庭裁判所に係属している必要がありますので、注意が必要です。

この制度の詳細については、こちらを御覧ください。

 

 

本件について

本件では、まだAさんが生きているので、その間に対策をとるのが最も簡便と言えます。

対策を取る際には、Aがどのような形でBさんにお金を渡すことを望んでいるのか、お子さんのCに対する相続についてはどう考えているかなどを考慮の上、対策する必要があり、いずれにしてもAさんの協力が不可欠になります。

また、もしAさんが急死してしまった場合や、Aの協力が得られない場合にも、上述の通り、預貯金債権の一部の払い戻しを受けることができますので、死亡後早い段階で戸籍等の資料を集めて、銀行に払い戻しを求めることで当面の間の生活資金は確保できるものと思われます。

それでも対応できないような大きな支出がある場合には、家庭裁判所に対して仮分割の仮処分を求める方法もありますが、裁判所を用いた手続きになるので、弁護士に相談することをおすすめします。

 

 

まとめ

弁護士生前の対策にしても、死後の対応にしても、弁護士や税理士などの専門家と相談の上、事後のトラブルがないように努めることが大事です。

遺される遺族もですが、遺す方がいらっしゃる人も、遺族のことを考えて遺言を含めた対策をしっかりとすることをおすすめします。

 

 


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