兄が父のお金を引き出していたのですが、返還を求めることができますか?

相続

勝手に引き出されていた預金についての質問です。

私Aは、父が令和元年10月に亡くなったのでその遺産を調べていたところ、兄Bが父の預貯金口座から、父の生前死後問わずに引き出していたことがわかりました。

私が金融機関に連絡をしたのでその口座は凍結されて引き出しはできなくなりましたが、すでに半分程度が引き出されてしまっていました。

Bは引き出したこと自体は認めているのですが、父から引き出していいと言われたのだ、父の世話をしたのだからもらうのは当たり前だ、と言っています。

私は、Bから引き出したお金を返してもらえるのでしょうか。どのようにして解決したら良いでしょうか。

なお、相続人は私とBだけです。

 

 


まず、Bの引き出しについて、父親の生前と死後で分けて考えなければなりません。

生前の引き出しについては、父親の同意があったかどうかが問題となり、同意がなかったと言える場合にはBは無権限での引き出しになり、父親がBに対して生前に引き出した額について返せと言えた権利(不法行為に基づく損害賠償請求権ないし不当利得に基づく利得金返還請求権)を、法定相続分でAとBが相続をすることになります。

そのため、父親の同意がないことが証明できれば、AはBに対して、生前に引き出した額の 2分の1を請求できることになります。

また、父親の死後の引き出しについてはAに無断でBが引き出すことはできないので、AはBが引き出した額の 2分の1について返還(不法行為に基づく損害賠償請求権ないし不当利得に基づく利得金返還請求権)を求めることができます。

ただし、遺産分割の手続の中で、Bが引き出した額をBが先に取得したものとして扱うことも可能であり、そのような処理もありえます。

もっとも、Bが同意しない場合には、死後の引き出し分のみを遺産分割の中で扱うことになります。

遺産分割で扱っても、訴訟で請求してもどちらでも構いませんが、遺産分割と引き出したものを別に扱うとなると、家庭裁判所の遺産分割の調停と地方裁判所での損害賠償請求訴訟の両方を提起しないといけなくなるので、手続きとしては面倒になります。

遺産からの無権限の引き出し

相続事件で、亡くなった方のそばにいた方が生前や死後に遺産である預貯金を引き出していることはしばしばあることで、その場合の相続の手続きは紛争になることが多いです。

相続人の1人が引き出し行為を行っている場合には、生前と死後に分けて考える必要がありますので、以下では生前と死後で分けて解説します。

 

被相続人の生前の引き出し

まず、被相続人の生前の引き出しについては、被相続人が引き出しについて同意をしていたかが争いになりやすい点です。

引き出しをした人の反論としてよく見られるのが、自分は被相続人からもらったのだというものや、引き出してきてほしいと言われて引き出して本人に渡しただけだというものです。

このような反論をされた場合、こちらが無権限で引き出したという以上、被相続人の同意がなかったことを立証しないといけません。

これは大変な作業であり、当時の病院や施設の資料を取り寄せたり、被相続人の状況や身近にいた人からの聞き取りなどが重要になってきます。

被相続人の生前の引き出しについては、こちらもご覧ください。

被相続人からの同意がなかった場合

もし被相続人からの同意がなかったことを引き出した人が認めた場合はどうでしょうか。

この場合には、引き出したことが被相続人との関係で不法行為等になり、被相続人が返せという権利を持っていたことになります。

そのため、被相続人が死亡した後は、その相続人が法定相続分に従って、不法行為に基づく損害賠償請求権等を相続することになるのです。

本件では、AとBはそれぞれ法定相続分が 2分の1ですので、生前に引き出した額の 2分の1をAがBに請求できることになります。

ただし、Bが任意に支払わない場合には、この請求権は遺産分割の対象ではないとされているので、残っている遺産の分割の手続きとは別に、民事訴訟を提起する必要があり、手続きは煩雑になります。

 

被相続人の死後の引き出し

被相続人の死後の引き出しについては、預貯金債権について、相続人がその法定相続分で準共有状態になるというのが判例ですので、預貯金の中のお金を相続人みんなで持ち合っているような状態です。

準共有者の同意なく引き出した場合には、不法行為又は不当利得となりますので、引き出した額のうち、法定相続分の割合を乗じた額については損害賠償請求等を求めることができます。

もっとも、この請求権も遺産分割の対象ではないとされているので、この場合も引き出した人が応じないと、民事訴訟をすることになるため、手続的には煩雑になります。

被相続人の死後の引き出しについては、こちらもご覧ください。

令和元年7月1日以降の相続の扱い

平成30年の民法改正により、令和元年7月1日以降に開始した相続の場合には、以下のような扱いをすることが可能になりました。

まず、死後の引き出しについて、相続人全員の同意があれば、引き出した分についても遺産として扱うことができ、遺産分割の中で扱うことができます。

これは従前からの実務での取り扱いを明文化したものです。

仮に、引き出した人の同意がない場合でも、引き出した人の同意は不要とされているので、それ以外の相続人の同意があれば、引き出した分についても遺産として扱うことができます。

これにより、引き出した人が同意をしない場合でも民事訴訟を起こすことなく、遺産分割の手続で解決が可能になり、手続きが一つで済むようになりました。

この「引出した人の同意が不要」という点が改正の肝ということになります。

注意点

死後の引き出し分について遺産分割の中で扱うためには、前提として引き出した人が誰かということに争いがないことが前提となります。

そのため、引き出した人が認めない場合には、遺産分割の前段階として、引き出された預貯金債権が遺産に含まれることの確認の訴えを起こす必要があります。

 

 

本件ではどうなるか

弁護士本件では、Bが引き出したことは認めているので、前提条件は問題ありません。

相続人はAとBだけですので、引き出したBの同意がなくてもAが遺産として扱うことに同意すれば、遺産分割の中で引き出した分も扱うことができ、すでに引き出された額については、Bが先に取得したこととして扱うことができます。

そのため、死後の引き出しについては民事訴訟を提起する必要はないでしょう。

 

 

まとめ

相続人の1人が被相続人の預貯金を引き出している場合は少なくありません。

その場合には、手続きも複雑になりやすく、訴訟が必要になってくることもあります。

相続税今回の民法改正で手続の面では簡単になりましたが、生前の引き出しについては対応できないことや、引き出したことを認めていない場合には規律が働かないなどまだまだ困難な問題が多いと言えます。

相続は改正民法の施行後も解決されていないことが多く、手続の選択が難しい場面もありますので、まずは相続を専門とする弁護士に相談をすることをおすすめします。

 

 


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