遺言執行者がいるのに遺産を処分できる?【弁護士解説】

遺言執行者

掲載日:2019年8月7日|最終更新日:2019年8月7日

遺言執行者がいる場合、相続人の遺産の処分行為は原則として無効となります。

ただし、善意の第三者には対抗することができません。

以下、相談事例をもとに解説します。

 

具体例 相談者:被相続人(亡くなった方)の長女(Cさん)

相続人は、母(A、55歳)、長男(B、35歳)と長女の私(C、32歳)の3人です。父は公正証書遺言により、不動産(甲土地)を私に遺贈し、かつ、遺言執行者に指定していました。ところが、父の死後、長男Bが他の共同相続人の相続放棄を無断で行って、甲土地について、自らの単独名義に移転登記し、第三者Dのための抵当権を設定しました。

この抵当権が実行されたため、私としては、第三者異議の訴えを提起したいと考えています。認められるでしょうか?

 

 

 

遺言執行者がいる場合の処分行為の問題点

上記の事例において、亡父は長女Cさんに甲土地を遺贈していること、しかも、わざわざ遺言執行者まで指定していることから、父の意思としては、長女に甲土地を承継させたかったのは明らかです。

しかし、第三者であるDさんは、相続人の1人であるBさんから甲土地について、抵当権の設定を受けており、いざというとき、抵当権が実行できると期待しているはずです。

いくら公正証書遺言や遺言執行者が指定されているからと言って、長女CさんがDさんに対して、「遺言と違うからあなたは保護されない。」などと主張できるとすると、Dさんに酷なようにも思えます。

仮に、Dさんが長女Cさんの遺贈について知らなかったような場合はなおさらです。

そこで、このようなケースにおいて、長女Cさんと第三者Dさんのいずれを保護すべきかが問題となります。

 

 

第三者に関する従来の考え方

弁護士従来、遺言執行者がいる場合の処分行為については、たとえ第三者が善意(遺贈について知らなかった)であったとしても、絶対的に無効であると考えられていました。

裁判例も、同種の事案において、無効という立場を示していました(最判昭62.4.23)。

したがって、従来の考え方では、Dさんの抵当権の実行は認められないこととなります。

 

 

遺言執行者がいる場合の処分行為における相続法の改正

従来の考え方は、遺言執行者がいるだけで、遺贈を登記なくして第三者に対抗できることになります。

このような考え方に対しては、遺言執行者がいるかどうか第三者にはわからないことが多いため、取引の安全を害するとの批判がありました。

このような問題意識のもと、相続法が改正され、遺言執行者がいる場合でも、善意の第三者に対しては、対抗要件(不動産の場合は登記)を備えなければ、第三者に対抗できないこととなりました(2019年7月1日施行)。

改正相続法

遺言の執行の妨害行為の禁止

第1013条 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。

2 前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。

3 前二項の規定は、相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。

 

 

改正のポイント

改正法のポイントをまとめると、下表のとおりとなります。

遺言執行者がいる場合 注意点
①相続人は遺言執行を妨害できない
②相続人が①に違反して処分行為を行った場合

原則:当該処分行為は無効

例外:第三者が善意の場合

善意の第三者に対しては、先に対抗要件を具備したほうが優先する。

第三者は過失の有無を問わない。

③相続人の債権者又は相続債権者

遺言執行者の有無にかかわらず遺産に対する権利行使が認められる

権利行使の例:相殺、強制執行、差押えの前提としての代位による相続登記等

 

 

事例について

弁護士以上から、長女Cさんの第三者異議の訴えの是非は、第三者Dさんが遺贈について知っていたか否かによって異なります。

Dさんが遺贈について知っていた場合は、悪意の第三者となるため、抵当権の実行は認められず、長女Cさんの第三者異議の訴えは認められます。

反対に、Dさんが遺贈について知らなかった場合、善意の第三者となるため、抵当権の実行は認められ、長女Cさんの第三者異議の訴えは認められません。

 

 

まとめ

弁護士宮崎晃上記のとおり、遺言執行者がいる場合の処分行為は、従来は、絶対的に無効となっていましたが、2019年7月1日以降は第三者が善意であるか否かによって結論が異なります。

法改正によって取引の安全は一定程度、保護されようにも思えますが、実務上は、「善意」か否かをめぐって争いとなることが予想されます。

遺言執行者がいる事案は、このような問題があるため、相続に詳しい弁護士に相談しながら、サポートを受けることをおすすめします。

当事務所の相続対策チームは、最新の相続法令を踏まえ、親身になって解決方法をご提案いたします。

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