遺産を売却したらどうなる?【弁護士が事例でわかりやすく解説】

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掲載日:2019年7月23日|最終更新日:2019年7月23日

遺産の売却は、法定相続分を超える部分については登記、登録、その他の対抗要件を備えなければその権利を主張することができません

以下、相談事例をもとに解説します。

遺産の売却についての質問です。

遺産売却_図

相談者:被相続人(亡くなった方)の長女(Bさん)

先日、父が亡くなりました。

母は父よりも先に他界しております。

相続人は、長男(A、40歳)と長女の私(Bを、45歳)の二人です。

父は生前、「すべての遺産を長女に相続させる」旨の遺言をしていました。

遺産は、自宅のほか、金(延べ棒2本)があります。

父の死後、私が遺言の内容にしたがって、自宅(父と同居していた不動産)の所有権移転登記を行う前に、長男が法定相続分(2分の1)を第三者(C)へ売却しました。

また、長男は、金(延べ棒)のうち、1本もCへ売却しました。

私は、父の遺言のとおりに、自宅と金を取得することはできるでしょうか?

遺産を第三者に売却した場合の問題点

上記の事例において、父の意思としては、長女Bさんに全財産を相続させたかったのは明らかです。

したがって、長男Aさんの遺産の売却は許されないようにも思えます。

第三者と話し合いしかし、第三者であるCさんは、自宅や金の延べ棒を取得したと考えているはずです。

いくら遺言があるからと言って、長女BさんがCさんに対して、「遺言と違うからあなたのものにはならない。」などと主張できるとすると、Cさんに酷なようにも思えます。

そこで、このようなケースにおいて、長女Bさんと第三者Cさんのいずれを保護すべきかが問題となります。

 

 

遺産の売却に関する従来の考え方

従来、このような遺産の売却(不動産の物権変動)について、次のように考えられていました。

遺産の売却(不動産の物権変動)に関する従来の考え方
  • 「相続させる」旨の遺言については、当該相続人は、登記なくして第三者に対抗できる(つまり長女BさんはCさんに権利主張できる。最判平14年6月10日)。なぜならば、「相続させる」旨の遺言は、遺産分割方法の指定であり、被相続人死亡の時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されると考えられる。
  • 相続分の指定の遺言についても、当該相続人は、登記なくして第三者に対抗できる(つまり長女BさんはCさんに権利主張できる。最判平5.7.19)。

上記は、動産(本ケースでは金の延べ棒)の場合も当てはまると考えられていました(ただし、動産の場合は、即時取得(民法192条)によって保護される場合もある。)。

 

 

相続法の改正

弁護士上記の従来の考え方に対しては、遺言によって相続分と異なる権利の承継がされた場合、対抗要件がないのに第三者に対抗することができてしまうため、取引の安全を害するという批判がありました。

そこで、法改正によって、相続による権利の承継は、法定相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第3者に対抗することができないこととなりました(改正法899条の2第1項。2019年7月1日施行)。

これによって、遺産分割や遺贈だけでなく、遺産分割方法の指定(「相続させる旨の遺言」)や相続分の指定であっても、法定相続分を超える部分は、登記等の対抗要件を備えないと第三者に権利を主張することができないこととなりました。

 

事例の検討

本ケースでは、長男Aと長女Bの法定相続分は、それぞれ2分の1ですが、父の死後、長男Aが法定相続分(2分の1)と金(延べ棒)2本のうち1本をCへ売却しています。

不動産について

不動産のイメージ画像長女Bが第三者Cに対して、長男Aが売却した不動産の権利を主張するには、Cよりも先に登記を具備することが必要となります。

金の延べ棒について

金の延べ棒金の延べ棒のうち、長男AがCに売却した1本について、長女がCに権利を主張するには、先に「引き渡し」を受けることが必要となります。

なお、「引き渡し」には、以下の①〜④の4形態があり(民法182条〜184条)、いずれかの引き渡しを受けることが必要です。

①現実の引渡し
②簡易の引渡し
③占有改定
④指図による占有移転

したがって、例えば、長女Bが先に金の延べ棒の直接の交付を受ければ、Cに権利主張が可能となります。

引き渡しの条文
(現実の引渡し及び簡易の引渡し)
第182条 占有権の譲渡は、占有物の引渡しによってする。
2 譲受人又はその代理人が現に占有物を所持する場合には、占有権の譲渡は、当事者の意思表示のみによってすることができる。(占有改定)
第183条 代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは、本人は、これによって占有権を取得する。(指図による占有移転)
第184条 代理人によって占有をする場合において、本人がその代理人に対して以後第三者のためにその物を占有することを命じ、その第三者がこれを承諾したときは、その第三者は、占有権を取得する。

 

 

まとめ

以上、遺産を売却した場合の権利関係について解説いたしましたがいかがだったでしょうか?

相続は本来親族間のものですが、遺産の売却は第三者が関係するため、当事者同士の話し合いでは解決できない場合があります。

また、具体的な事案に応じて、取るべき対応が異なるため、遺産の売却が問題となるケースでは、相続問題に精通した弁護士に助言を求め、適切な解決となるよう注意すべきです。

当事務所の相続対策チームは、最新の相続法令を踏まえ、親身になって解決方法をご提案いたします。

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