相続するはずの預貯金が他の相続人に引き出されていたらどうする?

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掲載日:2019年9月13日|最終更新日:2019年9月13日

相続分の預貯金が無断で引き出されていた場合について質問です。

先日、父Aが亡くなり、遺言が遺されていました。

遺言には、①不動産は長男のBに相続させ、②A名義の預貯金は長女の私Cに相続させる、③その他の遺産はBに相続させる、と書いてありました。

しかし、遺産の調査をしたところ、Aが施設にいた間、Aの財産を管理していたBが、Aが生きている間に、預貯金をすべてB名義の口座に移してしまっていたようでした。

Aが遺言を書いた時点ではAはしっかりしていましたが、BがAの預貯金を移していた時点ではすでにAは認知症がひどく、Aの指示で預貯金が移されたとは思えません。

これについてBに問いただしたところ、BはAには相談なく勝手に引き出したことを認めました。

しかし、Bは自分が面倒を見たのだから、お金は返さないと言っています。

Bからお金を返してもらうためにはどうしたら良いのでしょうか。

おしえてください。

本件は、遺言の解釈の問題になります。

遺言は、判例により、遺言の文言を形式的に解釈するのではなく、遺言者の真意を探求することになっています。

本件において、遺言の作成の経緯や言動から、遺言者であるAさんの真意が「Aさんの預貯金は、その代償物も含めて、不動産をもらわないCさんに預貯金の全てを相続させる」などの意思だったと言えるのであれば、遺言に基づいて代償物を取得したCさんは、Bさんに対してA名義の預貯金から引き出した額の返還を求めることができます。

例えばですが、遺言書に「長男であるBには不動産を引き継いでほしい。その代わり、Cには預貯金を多く残す。」と書いてあるような場合には、上記のような解釈はしやすいものと思いますし、そうではなくても生前にAさんが左記と同様の趣旨のことを述べていたのであれば、遺言の解釈にあたって参考にされます。

遺言の解釈に争いがある場合には、CさんはBさんに対して、不法行為に基づく損害賠償請求ないし不当利得に基づく利得金返還請求の訴訟を提起しなければならないことになります。

なお、遺言の解釈によっては、上記請求権が遺言の③によって、Bさんに帰属する可能性もあり得ますので、その場合に備えて遺留分についても請求しておくほうが無難でしょう。

Aさんの生前の法律関係

BさんがAさんに無断で預貯金を引き出していた場合、AさんはBさんに対して不法行為の損害賠償請求権ないし不当利得に基づく利得金返還請求権(以下、「本件請求権」といいます)を有していたことになります。

 

 

Aさん死亡後の法律関係

葬儀BさんやCさんは、本件請求権を遺言に基づいて相続することになるわけですが、遺言を文言通り捉えると、遺言の③で「その他の遺産はBに相続させる」となっているため、本件請求権もBが相続することになり、債権者と債務者が同じ人になることから権利が消滅することになります。

この場合、Bさんが取得した遺産がCさんの遺留分を侵害しているとすれば、CさんはBさんに対して遺留分の請求ができます。

もっとも、遺留分は4分の1ですので、預貯金をすべてもらえるはずだったCさんにとっては、Bさんのせいで勝手に遺言の内容を変えられたという気持ちになりますし、Aさんの遺言の解釈としてもこの結論で良いかは疑問があるでしょう。

▼遺留分について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

Aさんの遺言の解釈

印鑑と通帳遺言の解釈にあたっては、文言を形式的に判断するのではなく、遺言者の真意を探求することになっています。

そうすると、元々遺言者が預貯金のすべてをCさんに残そうとしていたところ、Aさんの意思に基づかずに預貯金が移動され、かつそのことをAが知らなかった場合には、遺言の解釈として、遺言者であるAさんの真意が「Aさんの預貯金は、その代償物(本件で言う本件請求権)も含めて、不動産をもらわないCさんに預貯金のすべてを相続させる」という意思であったと解する余地は十分にあると思われます。

上述していますが、遺言者であるAさんの生前の行動や遺言の他の文言を参照して遺言を解釈することになりますので、AさんがCさんに対して預貯金をすべて相続させる意思がどの程度のものだったのか、Aさんの意思に基づかない預貯金の移動があった場合にどのようにすることをAさんが想定していたのかの事情を丁寧に抽出して、遺言を解釈していくことになります。

 

 

遺言の解釈に争いがある場合

相続放棄遺言の解釈に争いがある場合には、本件請求権に基づいて訴えを提起し、その訴えの中で遺言の解釈を確定させることになります。

相続に関わる問題ですが、本件請求権については家庭裁判所の遺産分割の審判で扱える事項ではありませんので、最終的には民事裁判所の不法行為に基づく損害賠償請求の訴え等を提起することになります。

また、遺言の解釈を争うとなれば、裁判は長期間におよぶ可能性が高く、裁判が終わった時点で遺言が文言通りに解釈されてしまえば、Cさんとしては遺留分を請求するしかならないという状況になります。

そのため、裁判で遺言の解釈が認められない可能性も踏まえて、遺留分の請求権が時効にかからないように遺留分の請求も並行して行っておくほうが良いでしょう。

なお、審判事項ではないことを承知で遺産分割の調停の中で話し合う方法もありますが、調停で話し合いがまとまらない場合には結局のところ訴訟を提起せざるを得ないことになります。

 

▼遺留分の請求の対象や相手方について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

▼遺留分を請求した場合の相続税の申告について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

まとめ

遺言の解釈が明確ではない場合、その判断は弁護士でもかなり難しいものであり、場合によっては裁判所によっても判断が分かれることになります。

そして、遺言の解釈によっては用いる手続きが異なるなど、手続的な問題もはらんでくることになり、弁護士に相談することは必須と言えるでしょう。

また、遺言は紛争を防ぐ効果もありますが、一方で紛争の種になることもあり得ます。

本件の事案のように、相続人の一人が勝手に預貯金を移動させることに備えるというのは難しいですが、それでも色々なリスクに備えて遺言を作成する必要があり、特に相続人の納得のためにも遺言に「付言事項」を記載しておくのはとても重要です。

法的な面も含めて、しっかりと法的紛争のない遺言を作成するためには、まず専門家である弁護士にご相談ください。

▼預貯金の使い込みについて、詳しくはこちらをご覧ください。

 

 


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