葬儀費用を預貯金から引き出せる?【保全処分における仮の取得】

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一定の要件を満たせば、家裁へ仮払い申立てが可能です。

また、一定額については銀行に直接請求も可能です。

事例をもとに解説します。

 

相談事例

先日、夫が亡くなりました。

相続人は、妻である私(Aさん、62歳)のほか、長男(Bさん、32歳)、長女(Cさん、30歳)の3人です。

夫の遺産は、以下のものとなります。

・預貯金(F銀行F支店):200万円

・自宅不動産:1500万円(時価)

私と子供たちとの関係はあまりうまくいっておらず、今後、遺産分割において、もめる可能性があります。

すぐに夫の葬儀のための費用として、150万円を準備しなければなりません。

しかし、子供たちは、預貯金からの引き出すことに協力してくれそうにありません。

夫の葬儀費用を捻出するために、預貯金からお金を引き出すことはできないでしょうか?

 

家裁への保全処分の申立て

以下の要件を満たしている場合、家裁へ保全処分の申立てが可能です(家事手続法200条3項)。

①遺産分割の調停(又は審判)中であること

②相続財産に属する債務の弁済や、相続人の生活費の支払いのために必要であること

③対象は遺産に属する預貯金債権であること

④他の共同相続人の利害を害しないこと

従来、このようなケースにおいては、家事手続法200条2項による保全処分の申立てが考えられました(家事手続法200条2項)。

家事手続法200条2項

家庭裁判所は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、強制執行を保全し、又は事件の関係人の急迫の危険を防止するため必要があるときは、当該申立てをした者又は相手方の申立てにより、遺産の分割の審判を本案とする仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができる。

しかし、同条項は、共同相続人の「急迫の危険を防止」する必要があることを要件としており、厳格であるため、実際には利用が困難でした。

2018年の法改正により3項が追加され、預貯金については上記の要件を満たせば、仮払いの申立てが可能となりました。

家事手続法200条3項

前項に規定するもののほか、家庭裁判所は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権(民法第466条の5第一項に規定する預貯金債権をいう。以下この項において同じ。)を当該申立てをした者又は相手方が行使する必要があると認めるときは、その申立てにより、遺産に属する特定の預貯金債権の全部又は一部をその者に仮に取得させることができる。ただし、他の共同相続人の利益を害するときは、この限りでない。

 

 

保全処分における仮の取得が認められる場合の具体的な検討

保全処分における仮の取得については、新しい制度であるため、具体的にどのような場合に申立てが認められるのかが問題となります。

上記要件のうち、以下の点については注意が必要です。

 

遺産に属する預貯金債権であること

弁護士対象は、「遺産に属する」ものである必要があります。

したがって、預貯金債権が遺贈されている場合、贈与されている場合には保全処分における仮の取得はできません。

 

共同相続人の利害を害しないこと

この要件は、従来の保全処分と比較すると、文言上、大幅に要件が緩和されています。

具体的には担当裁判官の判断に委ねられますが、基準としては、以下のようなものが想定されます。

①原則として、遺産総額に申立人の法定相続分を乗じた額の範囲内

本件の事例では、遺産総額は1700万円です。

預貯金(200万円) + 自宅不動産(1500万円) = 1700万円

申立人となる妻Aさんの法定相続分は2分の1ですので、葬儀費用の150万円であれば、この要件を満たすことになると考えられます。

・遺産総額に申立人の法定相続分を乗じた額 1700万円 ☓ 1/2 = 850万円

850万円 ≧ 150万円

②当該預貯金の額に申立人の法定相続分を乗じた額の範囲内

①の基準は、葬儀費用を必要としているAさんにとっては良いのですが、他の共同相続人であるBさんやCさんにとっては納得できないかもしれません。例えば、Bさん達が自宅不動産についてまったく関心がない場合、自宅不動産よりも、預貯金の方が魅力的に見えるはずです。

一般に、遺産分割においては、流動性が低い不動産よりも現金等価物である預貯金の方を取得したいと考える方が多いと思われるからです。

預貯金200万円の中から150万円の支払いが認められると、残額は50万円しか残りません。

自宅不動産が売却できない、売却できたとしても長期間を要するような場合、Bさん達としては「使えるお金が手に入らない」というリスクを背負うこととなります。

そこで、Bさん達からは②の「当該預貯金の額に申立人の法定相続分を乗じた額」という基準によるべきだという主張が考えられます。

この基準を採用すると、Aさんが葬儀費用全額を捻出することはできなくなってしまいます。

・当該預貯金の額に申立人の法定相続分を乗じた額 200万円 ☓ 1/2 = 100万円

100万円 ≦ 150万円

 

 

本分割との関係はどうなる?

お金保全処分における仮の取得によって、申立人であるAさんに対して預貯金の一部が給付された場合、本分割においてはそのことを考慮せずに、改めて仮の分割された預貯金債権を含めて遺産分割の調停を行うこととなります。

例えば、本件事例において、Aさんに預貯金債権150万円を仮払いする旨の仮分割が行われた場合、本分割においては、下記のとおり、本件預貯金債権を含めて改めて分割する旨の調停や審判をなすこととなります。

 

【例】

被相続人の遺産を次のとおり分割する

1 Aに、預金債権150万円を取得させる。

2 Bに、自宅不動産を取得させる。

3 Bは、前項の代償金としてAに対し○年○月○日限り、700万円を支払う。

4 Bは、前項の代償金としてCに対し○年○月○日限り、425万円を支払う。

 

遺産分割については、こちらページに詳しい解説を掲載しています。

 

 

直接銀行に請求できないか?

上記のとおり、預貯金については、保全処分における仮の取得を利用でき、従来よりは手続が緩和されていますが、この手続でも、やはり家裁に遺産分割の調停を申立てが必要となり、素人の方には労力が伴います。

また、保全処分とはいえ時間的には1ヶ月以上は要すると思われます。

そこで、葬儀費用等については、銀行等に対して直接預貯金債権を行使できる方法が認められるようになりました。

この方法については、こちらのページで詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。

 

 

まとめ

遺産の問題を適切に解決するためには、相続法に関する専門知識やノウハウが必要です。

また、具体的な状況によって取るべき戦略は異なってくるため、可能であれば、相続に精通した弁護士に助言を求め、適切な解決となるよう注意すべきです。

当事務所の相続対策チームは、最新の相続法令を踏まえ、親身になって解決方法をご提案いたします。

当事務所のご相談の流れについてはこちらのページを御覧ください。

 

 

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