遺産分割協議をしていても遺留分減殺請求をする必要がありますか?



亡くなった父が、生前、自分の財産をすべて長男に相続させるという内容の遺言書を作成していました。

しかし、父は亡くなる10年前くらいから認知症に罹っていたため、私は、この遺言書は長男が判断能力のない父に無理やり書かせたものであって、無効な遺言書ではないかと考えました。

女性そこで、遺言書が無効なものであることを前提に、私は、長男に対し、遺産分割協議を申し入れています。

現在、長男は、私の申し入れを無視したまま、父が亡くなって半年が過ぎようとしています。

私は、遺言書が無効だと考えているので、長男に対し遺留分減殺請求を行っていないのですが、このまま請求しないで大丈夫でしょうか?

遺留分減殺請求は、父が亡くなって1年以内にしないといけないと聞いたので、このままでよいのか不安に思っています。

 

 

弁護士小村良之上記の事例の場合、遺留分減殺請求をしておく必要があります。

問題の背景

書類被相続人が遺言書を遺していた場合、基本的に、遺産は、当該遺言書の記載どおりに分けられることになります。

そして、遺言書の記載どおりに遺産を分けると財産をほとんど取得できない相続人は、遺留分減殺請求を行うことで、侵害された遺留分の範囲に限り被相続人の財産を承継することが可能です。

ここで、財産をほとんど取得できない相続人が遺言書の効力を争う場合、遺言が無効であることを前提に、他の相続人に対して遺産分割協議を申し入れることになります。

遺産分割協議が円滑に進むのであればとくに問題は生じないのですが、遺言が無効であるという点について、遺言の内容が自己に有利であった相続人との間で合意をすることは極めて困難です。

そのため、遺言の効力を争う場合には協議での合意が容易ではなく、解決までに長い時間を要することが多い傾向にあります。

月日

ここで、遺留分減殺請求権には1年間の消滅時効が定められているということが問題となります。

遺留分減殺請求は、消滅時効との関係で、「相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間」以内に行う必要があるのです(民法1042条)。

仮に、遺産分割協議の申し入れの中に遺留分減殺請求が包含されていると考えられるのであれば、遺産分割協議の申入れのほかに遺留分減殺請求を行う必要はありません。

しかし、遺産分割協議の申し入れの中に遺留分減殺請求が内包されていない場合は別途遺留分減殺請求を行う必要があるため、遺産分割協議の申入れと遺留分減殺請求の関係をきちんと把握しておかなければなりません。

なお、遺言書の効力を争う場合に、遺言の無効を前提とした遺産分割協議の申入れのみを行い、遺留分減殺請求をしないままされている相続人の方も見受けられます。

しかし、このような対応をしていると、最終的に遺言が有効であると判断された場合に、相続人が侵害された遺留分の範囲さえ財産を取得できないことになる恐れがありますので注意が必要です。

 

判例

小倉オフィス最判平成10年6月11日(民集52巻4号1034頁)は、
「遺産分割と遺留分減殺とは、その要件、効果を異にするから、遺産分割協議の申入れに、当然、遺留分減殺の意思表示が含まれているということはできない。しかし、被相続人の全財産が相続人の一部の者に遺贈された場合には、遺贈を受けなかった相続人が遺産の配分を求めるためには、法律上、遺留分減殺によるほかないのであるから、遺留分減殺請求権を有する相続人が、遺贈の効力を争うことなく、遺産分割協議の申入れをしたときは、特段の事情のない限り、その申入れには遺留分減殺の意思表示が含まれていると解するのが相当である。」
と判断しています。

これは、分割すべき遺産が存在しない場合であり、かつ、遺言の効力を争わない場合、財産を全く承継しなかった相続人が、財産を承継した相続人に対し、遺産分割協議を申し入れたとしても、これは実質的には遺留分減殺請求の意味合いしか有さないため、遺産分割協議の申入れの中に遺留分減殺請求の意思表示が含まれていると判断したものと考えられます。

 

検討

上記の判例を前提にすると、遺産分割協議の申し入れと遺留分減殺請求の関係については、以下のように整理されるでしょう。

遺言の内容が「特定の人に対し全財産を相続させる又は遺贈する」ものであった場合

【遺言の効力を争わないとき】
・被相続人の財産を承継した人に対して遺産分割協議を申し入れることで遺留分減殺請求をしたことになる。

【遺言の効力を争うとき】
・被相続人の財産を承継した人に対して遺産分割協議を申し入れても遺留分減殺請求をしたとは扱われない。

遺言の内容が上記以外の場合

被相続人の財産を承継した人に対して遺産分割協議を申し入れても遺留分減殺請求をしたとは扱われない。

 

 

まとめ

以上のように、遺産分割協議の申し入れを行えば遺留分減殺請求を行う必要がない場合も存在します。

もっとも、これは、遺産分割協議の申入れの内実が遺留分減殺請求であったとしか考えられない場合にのみ認められるにすぎません。

弁護士小村良之

したがって、遺言の効力を争う場合はもちろん、遺言の効力は争わずに遺言の記載と異なる分割割合を求める際は、遺産分割協議を申し入れるのに併せ、遺留分減殺請求を予備的に行うべきであると考えられます。

なお、遺留分減殺請求は、遺留分減殺請求を行ったという事実が事後的に争われないような内容、方法で行う必要があるため注意が必要です。

当事務所には相続対策チームがあり遺留分減殺請求事件を多数取り扱っておりますのでお気軽にご相談ください。

 

 

関連Q&A


[ 相続Q&A一覧に戻る ]
 

弁護士が教える!相続お悩み別解説