個人版事業承継税制が創設されました!【税理士登録をした弁護士が解説!】

平成31年度税制改正によって、非上場株式会社の事業承継の特例制度(以下、「特例制度」といいます。)に相当する個人事業者の事業用資産に係る納税猶予制度(以下、「本制度」といいます)が創設されます。

事業承継は経営者にとって、悩ましい問題の一つであり、その中で関心の高いものが節税策ではないでしょうか。

ご存知の方は少ないかもしれませんが、「非上場株式等についての相続税等の納税猶予及び免除の特例」という制度があります。

この特例はあくまで法人化している場合にしか用いることができず、個人事業として事業を行っている人は利用できない制度でした。

しかし、平成31年度税制改正により、上記特例に相当する「個人事業者の事業用資産に係る納税猶予制度」が創設されることになりましたので、そのポイントを解説していきたいと思います。

 

法人化していなくても利用可能に

1. 制度概要

本制度は、青色申告承認を受けていた事業者が死亡した場合に、その後継者として円滑化法の認定を受けた者に適用可能な制度であり、相続税や贈与税の納税が猶予され、一定の場合にはその納税が免除されるという制度です。

この制度は、従前の非上場株式会社の事業承継の特例制度の個人版といえるものとなっており、法人化しなくても事業承継において税制の優遇が受けられることになるものです。

 

2. 対象者と対象資産は?

対象者

亡くなった方又は贈与する方(以下「先代」といいます)は「青色申告の承認」を受けていなければなりません。

また、貸借対照表に該当資産が計上されている必要があります。

一方、相続によって財産を取得する者又は贈与を受ける者(以下「後継者」といいます)も、贈与税又は相続税の申告期限内に青色申告承認を受けて、その資産を貸借対照表に計上して青色申告書を提出する必要があります。

また、後継者は、2019年4月1日から2024年3月31日までの間に「個人事業承継計画」を作成し、都道府県知事に提出のうえ、認定を受ける必要があります。

贈与の場合には、後継者は、成人である必要があり、2022年3月31日までは20歳、同年4月1日以降は18歳が対象となります。

 

対象資産

対象となる資産は、「特定事業用資産」と呼ばれています。

この資産は、①先代の事業の用に供されていたこと②青色申告書の貸借対照表に計上されていること、が必要です。

また、資産すべてが対象ではなく、下記の資産に限定されています。

■ 特定事業用資産

・土地400㎡まで

・建物800㎡まで

・建物以外の減価償却資産

 

そのため、減価償却などがされない10万円未満の資産や耐用年数1年未満のものについてはこの制度の対象外と言うことになります。

一方、特許などの資産も対象に含まれています。

 

 

相続と贈与どちらでも適用可能です。

1. 相続だけではなく生前贈与にも適用可能

本制度は、相続が開始するまで待つのではなく、生前贈与によることもできます。

その場合、まず贈与税について納税の猶予がされますが、贈与後に相続が発生すると、すでに贈与した特定事業用資産を相続等により取得したものとみなし、贈与時の時価で相続財産に含んで計算することになります。

そうすると、そのときに再度相続税の納税の猶予を受けなければなりませんので、気をつけてください。

 

2. 本制度で贈与税猶予をする場合の留意点

 相続時精算課税制度も併用可能

本制度を利用する際、相続時精算課税制度が利用できます。納税が100%猶予されるのだから、特に相続時精算課税制度の利用には意味がないように思えますが、途中で事業を廃止した場合などは猶予されていた分の納税をしなければならなくなりますので、相続時精算課税制度の併用は有用であるといえます。

また、相続時精算課税制度は、本来は推定相続人のみが用いれる制度ですが、後継者が相続人ではない場合でも相続時精算課税制度の対象になります。

 

贈与時の時価になってしまう

特定事業用資産について、本制度の相続税の納税の猶予であれば、相続時の時価で算定されることになりますが、一方、贈与税の納税の猶予を用いた場合には、贈与時の時価で贈与税の計算がされますし、その後の相続でも同資産を贈与時の時価で算定することになります。

仮に、当該資産が値下がりするような者である場合には、贈与時の時価だと高額になる場合もありますので、その点も踏まえて制度を利用してください。

 

 

税額の猶予割合は100%

1. 納税を100%猶予

本制度が適用できれば、贈与であっても、相続であっても、特定事業用資産にかかる贈与税ないし相続税の納税が100%猶予されます。

猶予なので、事業を途中で廃止した場合や青色申告承認が取り消された場合などは、納税をしなければならなくなることには注意が必要です。

もっとも、担保の提供が条件になりますので、当該資産を担保に提供すること等が必要になります。

 

2. 猶予された納税額の免除事由は

では、本制度を適用して、納税を免除してもらった場合に、免除はされるのでしょうか。

一定の場合には免除されることになっており、その事由は下記のようなものがあります(すべての事由を網羅するものではありません)。

・(贈与税の本制度)先代が死亡した場合

・後継者が死亡した場合

・破産手続開始の決定があった場合

 

 

非上場株式会社の事業承継の特例制度との違い

1. 納税猶予の対象財産・債務の扱い

先ほど、本制度を特例制度の個人版であると説明しましたが、法人と個人の違いもありますので、その点について解説していきます。

法人では、株式が納税猶予の対象となっていましたが、個人版である本制度では特定事業用資産が対象です。

また、特定事業用資産だけではなく、事業に関する債務について控除できる事になっていますので、その点が異なります。

 

2. 青色申告承認の要否

前述のとおり、本制度の適用のためには、先代も後継者も青色申告の承認を受けていることが必要であり、特定事業用資産を貸借対照表に計上していることが要件として求められています。

一方、法人でも青色申告はあるのですが、特例制度には青色申告承認を求められておりません。

 

3. 継続届出書の期間

納税猶予がされると、継続のために税務署に一定期間ごとに継続届出書を提出しなければなりませんが、本制度では、3年毎に1回と決まっております。

一方、特例制度の場合は、はじめの5年間は毎年1回必要で、5年経過後に個人版と同様に3年毎に1回となります。

 

4. 小規模宅等の特例との選択適用

本制度を利用する場合には、相続税における小規模宅地等の特例とは併用ができません。

一方、特例制度(法人版)の場合には、猶予制度を用いるとともに、小規模宅地等の特例も用いることができるのです。

 

 

相続税の特定事業用宅地等の特例との併用は不可

1. 特定事業用宅地等の小規模宅地等の特例

まず、相続税における特定事業用宅地についての特例ですが、この特例を利用すると、事業に用いてた一定の土地について、400㎡を限度としてその評価額の80%を減額するというものです。

なお、相続税に関する特例であり、贈与税にはこの特例はありません。

 

2. 本制度との適用関係

本制度を利用した場合には、小規模宅地等の特例を用いることはできません、

そのため、どちらも利用するのがメリットが大きいのかを慎重に判断すべきことになります。

 

3. 小規模宅地等の特例と本制度の違い

(1)対象

対象としては、小規模宅地等の特例が、その名の通り「土地」を対象にしている一方、本制度は、前述の通り、土地建物だけではなく減価償却資産も対象としています。

そのため、機械類などで高価な物がある場合には本制度のほうが有利と言えるでしょう。

 

(2)評価額

小規模宅地等の特例では、その土地の評価額だけですが、本制度では、前述のとおり、負債が控除されることになります。

そのため、負債を控除すると節税の効果は薄れるので、負債が多い場合には本制度は不利になるといえます。

 

(3)適用時の影響

小規模宅地等の特例を用いた場合には、その土地の評価額の80%を減額するのですから、その土地の取得者が相続人の誰になるかにかかわらず、相続税の計算全体に影響をします。

つまり、相続人全員に影響するのです。

一方、本制度は、本制度を利用する人にのみ影響があるので、他の相続人には影響しません。

 

 

まとめ

弁護士入野田智也今回の個人版事業承継税制の創設により、法人ではない個人事業者でも事業承継時に是正の優遇を受けられることになりました。

しかし、この税制は2019年1月1日から2028年12月31日までの時限措置となっており、承継計画書の提出期間は2019年4月1日から2024年3月31日までとずれております。

もちろん、時限措置が延びることは十分に考えられますが、あくまで時限措置ということを念頭に、事業承継時に用いることが現実的か、他の節税策では対応できないかを検討していくべきと言えます。

また、税制だけに目を奪われるのではなく、最も大事なのは、後継者、従業員、取引先などのステークホルダーが納得のできる形で事業を承継することですので、その点にはお気をつけください。

 

 

 

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