連載コラム② 第3話「紛争を残さないためにすべきこと」


土地も10万円も要らない。財産を守ってもらえれば・・・

N弁護士は、YとJに対して、10万円ずつ代償金を支払うことで協議に応じてもらえるように書面を出した。

しかし、YとJは、「土地はいらないし、10万円も要らない。〇〇家の財産を守ってもらえれば、Tも喜ぶのでお願いします。」との回答があり、結局、土地をAが相続するということ遺産分割協議を行うことができた。

 

そして、後日N弁護士は、AとBに終了報告をすることになった。

弁護士
大変になるかと思いましたが、JさんやYさんが良い人たちで良かったですね。報酬は契約通り、〇〇円とさせていただきます。
男性
そうですね。10万円払うことはやむを得ないと思っていましたが、それも不要になったので、本当に先生には感謝しております。
弁護士
いえいえ。さて、今回の件はこれで終わりですが、お二人が引き継いだ遺産も含めて、遺言書を作成しませんか。
男性
遺言書ですか? 確かに今回の件もありますし、遺言書を作成しておいた方がいいですよね… でも、私としては法定相続分どおりに分けてもらえればいいかなと思っているのですが…
弁護士
そうですね。法定相続分で分けるとしても、遺言書は作成しておいた方がいいのです。今後農地が売却できるかわかりませんし、農地をAさんやBさんのお子さんたちが相続してまた同じように許可どうとか困るかもしれませんよね。でも、その場合でも遺言書で『遺言執行者』というものを定めておけば、その人が相続の手続をやってくれるのです。その遺言執行者として信頼できる親族や友人に任せるという方法もありますし、私のような弁護士を指定していただくという方法もあります。
男性
『遺言執行者』ですか?
相続手続をしてくれるというのは、どういう意味でしょうか。
弁護士
相続手続というのは、不動産の登記の移転や売却、預貯金の解約などをしてくれるということです。例えば、遺言書を作成していない場合ですと、預貯金があっても、遺産分割協議が整うか又は相続人全員の同意がない限りは、預貯金を引き出したり解約することができません。
また、遺言書を作成している場合でも、『遺産は、配偶者〇〇に2分の1、子ども△△に4分の1、子ども□□に4分の1を相続させる』といった文言になっていると、預貯金を引き出したり解約できないことになり、遺言書を作成していない状態と同じになります。
しかし、遺言で遺言執行者を指定して、『遺言執行者に対し、相続財産たる預貯金を解約してその払い戻しを受け、その払戻金を法定相続分に応じて相続人に分配する権限を付与する』と書いておけば、遺言執行者が預貯金を解約して相続人に分配することができ、迅速に預貯金の分配を実現することができます。
遺言執行者に手続を依頼できるものは色々ありますが、遺産全てを売却して、全てを金銭に変えた上で法定相続分に従って分けるという遺言も可能です。
また、遺言執行者を指定しておくことで、相続人が勝手に登記を移転したりされても、その移転自体が無効となりますので、確実に遺言の内容を実現できることになるのです。
ここまでの説明で何かわからないことはありますか。
男性
何となくですが、分かりました。配偶者や子どものことを考えると、遺言書を作成して、遺言執行者を指定したほうが良さそうですね。しかし、遺言執行者にはデメリットはないのでしょうか。
弁護士
デメリットではないかもしれませんが、気を付けなければならない点はあります。まず、遺言執行者を指定しておいても、その指定された人が引き受けるかは自由なので、指定された人が遺言執行者への就任を断れば、執行者がいないことになってしまうので、遺言を作成した意味が薄れます。そのため、遺言執行者に指定する人には事前に説明をしておくべきです。
また、遺言執行者が無償で行ってくれれば良いですが、弁護士などを付けた場合には、遺産の数パーセントを報酬として支払う必要があるというのはデメリットかもしれませんね。ただ、もし遺産分割で紛争になると、相続人がお互いに弁護士をつけて争うことになりますので、そうなったほうがよほど費用は掛かってきます。参考までに、私がセミナーで使っている資料をお見せしますね。

弁護士会の報酬規程(現在は自由化されている)

経済的利益  着手金 報酬
300万円以下の場合 経済的利益の8% 経済的利益の16%
300万円を超え3000万円以下の場合 5%+9万円 10%+18万円
3000万円を超え3億円以下の場合 3%+69万円 6%+138万円
3億円を超える場合 2%+369万円 4%+738万円

 

弁護士
この表は、一昔前の弁護士会の報酬規程で、現在は弁護士の報酬も自由化されていますので、参考程度のものとなりますが、今でもこの報酬規程を使用している弁護士事務所は少なくありません。
この報酬規程の場合、相続人が1000万円を得られる事案では、弁護士費用が着手金60万円+報酬1220万円かかります。また、相続人が3000万円を得られる事案では、弁護士費用が着手金160万円+報酬金320万円かかってきます。これは相続分の約15%程度になりますので、もし相続人各自で弁護士費用を払うとすれば、せっかくの遺産の15%が弁護士に持っていかれることになるのです。
それと、争った場合は、遺産分割成立までどのくらいの期間がかかるかと思いますか。
男性
そうですね・・・半年くらいでしょうか?
弁護士
協議で早く終われば、そのくらいで終わることもありますが、平均は1年程度かかります。特に、裁判所の調停という手続きに移行した場合は、1か月か2か月に1度の期日しか入りませんので、1年以上かかるのが普通で、場合によっては2~3年かかることもあります。
男性
え・・・そんなにかかるのですか?その期間、預貯金も下せないということですか?
弁護士
合意ができなければ、預貯金は下せないことになりますね。遺産分割で争いとなった場合は、費用としても大変ですが、期間も相当かかり、経済的にも精神的にも非常に辛い思いをすることになるのです。
これを回避するために当事務所では、遺言書を作成しておき、かつ遺言執行者をつけておくことを強く勧めています。
男性
そうですね。遺言を作成した方が良さそうですね。先生に遺言書の作成もお願いします。
男性
うーん、自分はいいかな。また作成したくなったら、先生にご相談する形でよろしいでしょうか。
弁護士
もちろんいつでもご相談ください。では、Aさんについては、まずは遺産目録から作成しましょう…

Aは、N弁護士に遺言書作成を依頼し、無事に事件は終わりを迎えた。

 

解説&ポイント

遺言を作成したほうが良い場合はどのようなときか

ポイントまず、遺言を作成するメリットはどのようなところにあるかをお話しします。遺言のメリットを知るには、まず遺言を作成しない場合にどうなるのかを知る必要があります。
遺言がない場合には、残った遺産を分けるために遺産分割をする必要があります。まずは、遺産分割の話し合い(遺産分割協議)をして、そこでまとまれば、遺産分割協議書を作成して、不動産の名義の変更や預貯金の解約の手続をすることになります。
しかし、遺産分割協議でまとまらない場合には、遺産分割「調停」というものが必要になります。調停というのは、協議と同様に話し合いの手続ですが、裁判所で行われ、「調停委員」という人が話し合いの仲介役をします。裁判所を使った手続きなので、1ヶ月から2ヶ月に1回期日が入り、平均1年程度で終わりますが、長いと数年かかることもあります。
もし調停でも終わらない場合には、「審判」といって、裁判所が分け方を決めてくれる手続に移行します。審判になれば、調停にプラスで数か月はかかります。
このように、遺産分割というのは、一度争いになってしまうと長い年月を必要とすることになるのです。そして、お互いに弁護士をつけて、言い争いになることで精神的にも経済的にも疲弊していくのです。
このような紛争を防ぐのが遺言ということになります。遺言をしっかりと作成しておけば、紛争のリスクを下げることができます。

遺言の中でも公正証書がおすすめ

①遺言の種類
遺言は、民法上数種類あるのですが、その中でも多いが「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の二つです。それぞれメリットデメリットがあるものの、当事務所では公正証書遺言をお勧めしております。

②自筆証書遺言のメリットデメリット
自筆証書遺言は、手軽に書けて費用もかからないというメリットがある一方、遺言の要件を満たさないことがある、本当に本人が書いたのかが分からず紛争になりやすい、相続が生じた後に検認という手続をとらなければならないというデメリットがあります。
※平成30年4月2日現在、民法改正案の提出が閣議決定され、その中で、自筆証書遺言を法務局で保管する制度が設けられる予定です。この保管制度を利用した場合には、検認が不要になるようなので、改正後には保管制度を利用することでデメリットをなくすことはできそうです。

③公正証書遺言のメリットデメリット
公正証書遺言のメリットデメリットは自筆証書遺言と反対といえます。メリットは、要件を満たさないということはほとんどなく、公証人が本人確認や意思確認をするので紛争となりにくく、相続が生じたあとに検認の手続が不要という点です。一方、デメリットとしては、公証役場というところで作る遺言なので、書こうと思った日に書いたり変えようと思ってすぐに変えられるというものではないので手軽さはなく、公証役場に支払う手数料が数万円、場合によっては数十万円かかるという点です。

④結局、どっちがいいの?
どちらがいいというものではないのですが、遺言自体が争いをなるべく回避するために作成するものだとすれば、紛争となりやすい自筆証書遺言は避けるべきでしょう。また、費用の面についても、相続が発生した後に「検認」という手続きが必要となるのですが、この手続のために大量の戸籍を取得することになり、それを弁護士に任せると5~10万円程度かかりますし、検認は亡くなった方の最後の住所地の裁判所に行かないといけないので、相続人(例えばお子さんたち)が遠方に住んでいる場合には、お子さんたちに無駄に負担をかけることになります。
加えて、デメリットではないですが、自筆証書遺言の存在を相続人に伝えていないと、遺言書自体が発見されなかったり、遺産分割後に発見されるということもあり得ます。
当事務所では、公正証書遺言を作成することをおすすめしており、公正証書遺言を作成するまでに時間がかかる場合には、自筆証書遺言を経過措置として作成するということをおすすめしています。

遺言執行者を指定すべきか

①遺言執行者
遺言執行者というのは、文字通り、遺言者の代わりに遺言の内容を実現するために遺言を執行する者です。もう少し簡単に言えば、遺言の内容の手続を行ってくれる人のことです。
遺言執行者は、遺言により遺言者が指定することができ、誰を指定しても構いませんが、親族や弁護士を指定する場合が多いのではないかと思います。

②遺言執行者指定のメリット
遺言執行者を指定すると、その人がすべての手続きを行ってくれますので、弁護士を指定しておけば、相続人や受贈者には負担をかけなくて済みますし、手続きが迅速に行えます。
また、遺言執行者がいる場合、遺言に反して相続人が遺産を処分してしまった場合でも、その行為が絶対的に無効になりますので、例えば金塊が遺産としてあったとして、それを相続していない相続人が勝手に売却したとしても、その売買行為が無効だとして、買主から無償でその金塊を取り戻すことが可能なのです。
仮に遺言執行者がいない場合には、金塊は即時取得の対象となり、質屋に所有権が移転してしまいますので、取り戻すのは困難となります。

③遺言執行者指定のデメリット
遺言執行者のデメリットは、報酬の支払でしょう。しかし、ストーリーの中でNが説明していたとおり、紛争になった場合の弁護士費用よりははるかに安い場合がほとんどです。
また、デメリットとは異なりますが、金融機関を遺言執行者に指定する場合、相続人が遺留分減殺請求をしてくるなど紛争に発展しそうなとき、金融機関が遺言執行者への就職を辞退する場合もあるようです。辞退をするのは、金融機関が紛争のある事件を扱うと、弁護士法72条の非弁活動をしたことになり、違法となるからだと思われます。そのため、遺言の内容の実現を確実にしたい場合には、弁護士に依頼するのが確実です。

④遺言執行者を指定すべき?
上記のとおり、遺言執行者がいるといないでは、相続人の負担は全く異なりますので、少し費用がかかったとしても、遺言執行者を指定することをおすすめしております。

 

 

 

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