連載コラム② 第1話「田んぼは売れる?」


平成30年3月14日

男性
遺族を代表いたしまして、挨拶をさせていただきます。Zの長男のAと申します。
父は、私たちのことを男一人で育て・・・(略)・・・本日、このようにたくさんの皆様にお集まりいただいたことで、あらためて父の人柄を思い出し、感慨深いものがあります。・・・

 

葬式が終わり・・・

男性
お父さんもだいぶ長生きしたけど、ついにお母さんのところに逝ってしまったね。
男性
そうだね。母さんが早くに死んで、大変だったろうけど、この年までよく頑張ってくれたよね。
男性
しかし、お父さんの遺産の整理は大変そうだね。結構たくさん田んぼや山を持っていたしね・・・
男性
そうだね。正直、預貯金とかを残して欲しかったのだけれど、田んぼとか山とかばかりだものね。兄さんも自分も使わないし、どうしようね。
男性
そうだなぁ、誰か貰ってくれる人がいれば田んぼや山はあげてもいいくらいだけど、かなり田舎だし、簡単には貰い手も決まらないだろうな。
男性
どこかで聞いたのだけど、確か田んぼとか山って、簡単に贈与できないんじゃなかったっけ。許可が必要だとかなんとか・・・
男性
え、そうなの?
じゃあ、僕らが相続するのにも何か許可が必要なのか・・・一度役所に行って相談をしてみようか。

 

後日、役所に行く二人・・・

男性
今日は、農地の相続のことでお話を伺いたいんですけど
はい。どのようなご相談ですかね。
男性
先日、父が亡くなったのですが、その父がたくさんの農地を持っておりまして、その相続にあたり許可とかが必要と聞いたのですが、許可が必要なのでしょうか。また、相続をしても私たちは使用しないので、誰かに売却したいと考えているのですが、その場合にも許可等が必要なのでしょうか。
許可のことについてですね。まず結論から申し上げると、相続にあたって許可は必要ありません。ただ、農業委員会に対する届出が必要にはなりますので、届出書をお渡ししますね。
次に、相続後の売却の場合ですが、その農地を農地のまま売却する場合であれば、農業委員会の許可が必要になります。仮に、農地を宅地など別の用途に転用して売却する場合には、都道府県知事または指定市町村長の許可が必要になります。
農地を相続したのちはどうするおつもりですか?
男性
農地は、僕らには必要ないので、もらってくれる人がいればタダでもいいのでもらってほしいです。誰か貰ってくれる人がいたりしませんかね。
そうですね。農業委員会があっせんをしてくれたり、農地によっては農地中間管理機構という機構に買い上げて貰ったりすることもありますね。相続のこともありますし詳しい話は、専門職の方にされたらどうでしょうか。
男性
そのような制度もあるのですね。いろいろ検討してみます。
専門職の方に相談される際には、登記事項証明書や名寄帳と言った資料を持って行った方がいいですよ。登記事項証明書は法務局で、名寄帳は3階の課税課で取ることができます。
男性
そうなんですね。3階に行ってみます。有難うございます。

 

二人は、農地等のことについても詳しいという相続専門のN弁護士に相談しに行くことにした

弁護士
Aさん、Bさん、初めまして。私は弁護士のNといいます。今回は、どういったご相談でしょうか。
男性
先日、私たちの父のZが亡くなったのですが、そのZが沢山の農地を所有しておりまして、その相続をどうしたら良いかということを聞きたくて来ました。
弁護士
そうですか。ちなみに、土地の全部事項証明書や名寄帳といった資料はお持ちでしょうか。
男性
役所に行った際に、名寄帳だけもらってきました。これです(名寄帳をNに差し出す)。
ただ… 父の遺品を整理していた際に固定資産税の通知書があって、それを見たところ、名寄帳に載っていない土地がいくつかありました。通知書はこれです(通知書をNに差し出す)。
弁護士
名寄帳と通知書を見てみると・・・
田んぼや畑が結構ありますね。
男性
先祖代々受け継いだ農地や家ですからね。ちなみに、この名寄帳には載っていない土地があるのですが…
弁護士
そうですか(Nは少し嫌な予感がした)。名義人を確認するため登記事項証明書をとってみましょうか。住所は分かりますか?
男性
はい、わかります。
弁護士
1通ごとに数百円の手数料がかかりますが、よろしいですかね。
男性
登記事項証明書が見れるのですか?
役所では、法務局に行かないと取れないと言われましたが・・・
弁護士
登記情報提供サービスというインターネット上で登記事項証明書を閲覧、PDFで保存できるサービスがあるのです。正式な書類としては通用しないのですが、単に調べるだけなら便利なシステムです。
男性
そうなのですね。手数料がかかっても構いませんので、よろしくお願いいたします。

 

Nは、事務所のスタッフに登記事項証明書をとって印刷することを指示した。

弁護士
とりあえず、登記事項証明書がとれるまで、相続人が誰なのか、財産はどのくらいあるのかについて聞いておきたいのですが、よろしいでしょうか。
男性
はい。今月の10日に父が亡くなりました。もう数十年前に亡くなっており、すでに祖父母や父の兄弟の多くは亡くなっております。子どもは、私たちの二人だけです。
財産は、不動産が自宅とたくさんの農地があります。預貯金は1000万円ほど残っていました。それ以外は、農業用のトラクターなどがあるくらいで、財産的な価値があるものはほぼないですね。
弁護士
そうですか。そうすると、相続人はAさんとBさんで、不動産と1000万円の預貯金をどう分けるかということになりそうですね。ただ、相続人はしっかり戸籍を集めて確認はしたほうがいいですね。戸籍の取り方は分かりますか。
男性
分かりました。戸籍ですね。それくらいは取れると思います。遺産分割の希望としては、すべての不動産を売却して、私たち二人で半分ずつにするのが一番公平かなと思っています。ただ、どうやって売却するかが分からないのですが、どうしたらよろしいでしょうか。

 

Nが話をしようとしたところ、Nのスタッフが、ドアをたたき、登記事項証明書を持ってきた。

弁護士
登記事項証明書が来ましたね・・・
うーん・・・(やっぱり)
登記を見たところ、 Zさん名義ではない土地があるようですね。Pさんのお名前になっています。このPさんのお名前は見覚えがありますか。
男性
この名前は確か… もう50年以上前に亡くなっている曾祖父の名前だと思います。確か、曾祖父が亡くなって、長男である祖父が相続して、その後、祖父が亡くなったので、父が相続をしたのだと聞いたことがあります。そうすると、曾祖父の名義のまま放置してあったということなのでしょうか…
弁護士
そうですね。特に珍しい事ではないです。ただ、問題は名義変更をするために、曾祖父の相続人やその相続人の相続人と遺産分割協議をしないといけないことです。まずは相続人を確定させなければならないですね。
男性
なんだかややこしいことになってきましたね・・・戸籍もたくさん取らないといけないですよね?
先ほどは自分でできると申し上げたのですが、戸籍取得も含めて先生にすべてお願いすることはできますでしょうか。
弁護士
もちろんです。まずは相続人調査ということでこのくらいの費用で受けたいと思います。期間は2~3か月いただくと思いますが、よろしいでしょうか。
男性
はい。よろしくお願いいたします。

 

解説&ポイント

農地について

ポイント①農地は規制が多い
田や畑などの農地は、農地法など関係法令によってその売買や賃貸借に許可や届出が必要という規制があります。農地法は、農地法第1条の目的規定に書いてあるように「耕作者の地位の安定と国内の農業生産の増大を図り、もつて国民に対する食料の安定供給の確保に資することを目的」としており、優良な農地を安易に転用されないように許可制を設けているといえます。
農地法では、農地のまま権利を移転・設定する際には、農業委員会の許可が必要で、都市計画法の市街化区域ではない農地を農地以外に転用する場合には、都道府県知事又は指定市町村長の許可が必要となっており、許可の要件も定められております。これらの要件を満たさない限り、農地は転用できないため、使い勝手は良くありません。
しかし、相続の際には、農地を転用しない限りは農業委員会の「許可」は不要で、「届出」をすれば足りることになります。

②農地を処分するにはどうしたら良いか
相続をしても、農地をどうしたら良いか分からないということはしばしばあります。特に、相続人は農業に携わっておらず、今後も携わる予定がない場合には、譲渡や賃貸を考えざるを得ませんが、農業に携わって来なかった人が、農地を必要としている人を探すのは至難です。このような場合、農業委員会に相続したことを届け出る際に「あっせん」をお願いすることができ、農地を必要としている人とつないでくれますので、利用してみるとよいでしょう。
※許可と届出の違いは?
許可と届出は、一見するとそれほど違いがないように思えるかもしれませんが、法的には全く意味が異なります。「許可」は、行政側で内容をみて要件を充足しているかを判断し、許可を出すかを審査しますが、「届出」は、形式的なところがそろっていれば、中身の審査などはなく、届出を受ければそれで終わりです。要は、許可と届出の違いというのは、行政側が中身の判断をするか否かと言っても良いかもしれません。

被相続人の財産を調べる

被相続人が亡くなった場合、その相続財産がどれだけあるかわからないというご相談をいただくことが少なくありません。その場合の調査方法について、不動産と預貯金等について説明します。

①不動産
不動産を調査するためには、まずは被相続人の遺品の中に権利証や固定資産税の納税通知などがないかを調べることが最初にすべきことです。それらを見つけることができれば、ある程度の目星がつきます。
次に、被相続人の住居地などの役所に行って「名寄帳」というものをとるということが考えられます。本件でも、名寄帳をとっていますが、名寄帳にはその自治体に被相続人が所有していた財産を記載しているものですので、一覧性があります。もっとも、自治体外の財産は載っていないので、複数の自治体に不動産を持っている場合には、それぞれの自治体から名寄帳をとらなければなりませんので、注意が必要です。
最後に、住所地さえ分かっていれば登記事項証明書を取得して、その名義人を確認することも必要です。本件のように、名義を変えないでそのままにしているということはしばしばあり、行政も問題視している状況です。登記事項証明書は正式なものは法務局でとることになりますが、登記情報提供サービスというものを使えば、8時30から21時の間にオンラインで登記事項証明書を閲覧取得できますので、大変便利です。
当事務所では、相談の際に必要があれば手数料をご負担いただく形で登記事項証明書を取得しております。

②預貯金口座の調査
預貯金口座の調査も、まずは遺品から預貯金通帳や銀行からの通知がないかを探すことから始めます。
しかし、通帳が紛失していたり、銀行の金庫にあるためにその存在がわからないということがあります。そのような場合には、ある程度の目星をつけて、いくつかの銀行に下記の書類を持参して、口座があるかどうか、あればその残高はどうなっているかを照会することができます。
1.被相続人の死亡が分かる戸籍
2.相続人であることがわかる戸籍
3.窓口に行くのが代理人である場合には、委任状
被相続人が金銭を預けていた銀行が全く分からず、複数の調査を行うとなるととても大変です。そのため、当事務所では財産調査を代わりに行うこともしています。

 

 

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