【弁護士が解説】相続法改正でなにが変わる?-配偶者居住権-Ⅱ


配偶者居住権の評価は?事実婚や同性婚は?

さて、配偶者居住権についての問題を引き続き検討してみようか。
どんな問題があるかな。

そうですね。
まずは、遺産分割にあたって配偶者居住権の評価額をいくらとするかの問題が大きいと思います。

そのとおりだね。
配偶者居住権の評価額について、さっきは配偶者居住権の評価額を500万円としたけど、この評価額自体が争われる可能性が高いだろうね。
配偶者居住権の評価については調べてみたかな。

少し調べて見たのですが、結局、最終的には鑑定をするなどしなければならないようです。

うーん・・・
確かに鑑定をして評価額を決めるのはそのとおりだけど、遺産分割の際にいつも鑑定をしたりすると思う?

いえ、鑑定は実務でもそれほど多くないはずです。
そうすると、鑑定をしなくても算定する方法があるということでしょうか。

遺産分割の協議や調停の段階というのは、結局は話し合いだから、鑑定をするのではなく、簡易な計算方法を用いて評価額を出す方が現実的だろうね。

 

 

不動産の評価額を出すためには


例えば、改正前でも不動産の時価が問題となることはしばしばあることだけど、その時はどのようにして不動産を評価することが多いか知っているかな。

この前先生の進行記録を見ていたのですが、その時は固定資産税評価額を用いていましたよね。
固定資産税評価額を用いるということでしょうか。

 

そうだね。実務では、固定資産税評価額を用いることも多いね。
でも、固定資産税評価額は時価と同じなのかな。どう思う?

固定資産税評価額ですか・・・
確か導入修習で教官が時価より安いとか、時価の7割くらいを目安に設定されているとかいろいろ話をしていた気がします・・・

教官が話していることをしっかり聞かないとだめだよ。
固定資産税評価額については、基本的には時価より安くなっているはずなんだよ。
大体時価の6~7割くらいだと言われているけど、固定資産税評価額は公示価格の7割になるように設定されているんだ。
そもそも時価というのが難しくて、結果としては売却してみないと分からないものだから、時には時価の5割を切る評価額になっていることもあるし、時価を超えている場合もないわけではないんだよ。

時価を超えている場合もあるのですか。
固定資産税評価額というのはしっかりと自治体が調査をして評価しているのですよね。

どうしてそうなってしまうのでしょうか・・・

色々理由はあるけれども、まず第一に時価というものが常に変動し、固定されているものではないことが要因だね。
そもそも、固定資産税評価額というのがなぜ時価より低く設定されるようになっているかわかるかな。
本来は、固定資産に関して税金を取るわけだから、時価をもとに固定資産税を課すべきだよね。
なぜそうしないのだろう。

その話も教官がしていたように思います。
確か、固定資産税評価額の評価は3年ごとに行われるから、その3年以内に時価を超えてしまわないように7割くらいの額を設定するということだったかと思います。

そこまで説明しているとは、良い教官だね。
確かに、固定資産税評価額は、3年に一度しか評価替えを行わないから、その3年以内に土地などの価値が上がってしまって、固定資産税評価額が時価を超えてしまわないようにするためなんだ。
例えば、評価した後に、その不動産の近くに駅ができることになったり、オリンピックの誘致みたいに大きなイベントなどがあって不動産の価値が高まることはあり得るよね。
ただ、そもそもなぜ時価を超えるとだめなんだろうね。

税金を取りすぎることになるからではないですか。
時価をもし超えている評価額を基準に固定資産税を課されると、税金が取られる過ぎることになりますから、違法な課税ということになってしまいます。

Tくんは本当にしっかり考えているね。
その通りなんだけど、本来は課税というのは、安くても高くてもだめなんだ。
そのため、時価に固定資産税を基準に税金をかけないといけないのだけど、現実問題としてそのようなことは不可能だから、取りすぎないように評価額を設定しているんだよ。
では、話を戻すけど、不動産の評価のためには固定資産税評価額を用いるとさっき答えてもらったけど、評価額をそのまま用いるのでいいかな。

そうですね・・・
固定資産税評価額は、時価より安いわけですから、その評価額を時価に近づけるために7分の10をかけて割り戻せばいいのではないでしょうか。

そうだね。固定資産税評価額が時価の7割くらいという前提だから、7分の10をかけて割り戻せばいいね。
それ以外にも、1.4をかけたりすることもあるよ。ただ、気を付けてほしいのは、これはあくまで机上の計算であって、不動産によっては、固定辛酸税評価額のほうがむしろ高いくらいのこともあるから、その不動産の状況を聞き取って、不動産業者に査定してもらうことも大事だね。
例えばだけど、遺産分割の際に、居住用不動産が問題となる場合なんかは、何十年も住んできた木造の家が固定資産税評価額で数十万円がついていることもあるけど、実際には老朽化していて使えず、むしろ取り壊し費用がかかるということもあるからね。
相続税を計算するにあたっての評価額である相続税評価額でも、建物は固定資産税評価額と相続税評価額が等しいことになっているから、この点も参考になるね。
うちの事務所では、連携している不動産業者に頼んで、不動産を査定してもらうことが多いね。
他にも、路線価であったり、公示価格を用いることもあるから、弁護士になるなら、この辺りはしっかりと勉強しておかないとだめだよ。

はい。わかりました。

それでは、不動産の評価についての実務がわかったところで、今後配偶者居住権の評価をどうしていくかを考えてみようか。
まず、被相続人の遺した不動産が土地付きの一戸建てである場合を考えてみよう。
この場合、配偶者居住権の価額は、どのように算定できるかな。この資料を見て検討してみてもらえるかな。

分かりました。少し時間をください・・・・・・
いただいた資料によると、配偶者居住権の価額の算定にあたっては、居住建物の配偶者居住権の価額とその土地の敷地利用権の価額を出さないといけないようですね。

そうだね。配偶者居住権の価額というのは厳密には建物の使用権だけのことだから、用語の使い方としては正確ではないけど、配偶者居住権を設定すると当然にその下の土地も利用することになるから、この土地の敷地利用権も必然的に相続することになるから、その敷地権も含めて配偶者居住権の価額と呼ぶ方が簡単だね。つまり、分かりやすくするためには配偶者居住権を取得すると、
①居住建物の配偶者居住権の価額 + ②土地の敷地利用権を足したものが、評価額という考えをするということだ。

 

居住建物の配偶者居住権の価額

うんうん。では、仮に、配偶者居住権の評価額が500万円だとしたら、どうかな。

配偶者居住権が500万円の評価額だとすると、配偶者が配偶者居住権を取得して、500万円の預貯金を取得することになり、子どもは居住建物自体と預貯金500万円を取得することになりそうですね。

居住建物の配偶者居住権の価額の計算式

居住建物の配偶者居住権の価額 = 居住建物の価額(固定資産税評価額)- 配偶者居住権の負担付所有権の価額

※法定耐用年数
木造住宅用建物:22年
鉄筋コンクリート造の住宅用建物:47年

※ライプニッツ係数

債権法改正後の(3%)
(2020年4月1日以降)
現行法(5%)
5年 0.863 0.784
10年 0.744 0.614
15年 0.642 0.481
20年 0.554 0.377
25年 0.478 0.295
30年 0.412 0.231

そうだね。この式で簡易的な評価額が出せるんだけど、この計算式を用いるにあたって、どのようなことが問題となるかな。

居住権の存続期間ではないでしょうか。
配偶者居住権は、原則として、終身の権利ですから、存続期間が定められていない場合に、この期間をどうするかという問題が生じると思います。ライプニッツ係数も存続期間がわからないと出せませんし・・・
この点については、資料からすると、「簡易生命表記載の平均余命」を用いるということになっていますね。

そうだね。平均余命というのは知っているかな。

平均寿命なら聞いたことがありますが、平均余命というのはあまり聞いたことがありません・・・
文言からすると、平均的にどのくらい生きるかの表ということですかね・・・
でも、それだと平均寿命と同じになってしまうし・・・

平均余命というのは、ある年齢の人が、あと何年生きることができるのかという平均値・期待値のことだよ。
これが簡易生命表なのだけど、例えば、70歳男性の人の平均余命はどのくらいかな。

厚生労働省:平成28年簡易生命表の概況平成28年簡易生命表(男)

この表を見ると、70歳男性の人は、平均余命が15.72年ということですかね・・・
そうだとすれば、存続期間は15年くらいと考えていいのでしょうか。

そうだね。存続期間が終身の場合には、平均余命を用いて15年程度と考えて良いだろうね。
もちろん、この点は協議や調停では話し合いになるから、15年を必ず用いないといけないわけではないけど、目安にはなると思うよ。

もしですが、平均余命以上に生きた場合はどうするんでしょうか。
また調整し直したりするのでしょうか。

いやいや、これは配偶者居住権の評価の問題だから、仮に平均余命よりも生きたとしても、評価額は変わらないよ。
このことは、平均余命よりも早く亡くなってしまった時も同じなんだ。要は、そのくらい生きるだろうと仮定をして、評価しているだけだからね。
他にはどのような問題があるかな。

法定耐用年数から経過年数と存続期間を差し引くことになっていますが、存続期間が長くなり、法定耐用年数を超える場合はマイナスになってしまいます。
資料によれば、この場合は、0としてカウントするようですね。
そうすると、この場合は居住用建物を取得するのと変わらなくなってしまいますね。

そうだね。法定耐用年数を超える期間使うということは、その建物が使える年数をフルで使うということになるから、結果として建物の所有権を取得するのと同じになってしまうんだよね。

若い人が配偶者居住権を取得する場合には、法定耐用年数を超えることになりそうですね。
その場合は、居住建物を取得することを考えた方が良さそうですね。

土地の敷地利用権について

さて、敷地利用権について考えてみようか。
資料にはどのように書いてあるかな。

この資料によれば、敷地の価額、つまり固定資産税評価額から、居住権負担付敷地の価額を差し引くことにより求めるようです。
具体的には、ホワイトボードに書いたとおり計算するようですね。

敷地利用権の価額の計算式

敷地利用権

= 敷地の固定資産税評価額 - 居住権負担付敷地の価額

= 敷地の固定資産税評価額 ×(1 ー ライプニッツ係数)

※居住権付敷地の価額 = 敷地の固定資産税評価額 × ライプニッツ係数

そうだね。この計算式によると、敷地利用権の場合は配偶者居住権と異なり、耐用年数などを考える必要がないよね。
これはなぜかな?

建物はいつか使えなくなるものですが、土地は時間の経過によって使えなくなったりするものではないからです。

よく勉強しているね。

耐用年数とは異なるけど、会計や税金でも、減価償却というのがあって、建物は減価償却するけれども、土地は減価償却しないんだ。
つまり、土地は、価格の変動はあっても、古くなったから価値が下がるというものではないということだね。
ちなみに余談だけど、土地以外に時の経過により減価しないものはどんなものがあるかな。

土地以外ですか・・・
考えたことがなかったです・・・
わかりません。

よく言われるのは、絵画などの美術品や骨董品などは時の経過によって劣化していくものではないので、減価償却しないと言われているね。
むしろ、美術品などは時の経過によって価値が高まることすらあるものだからね。

事実婚や同性婚でも使えるのか

それでは最後に、この配偶者居住権という制度が事実婚や同性婚でも使えるのかを検討してみよう。

この点については、少しだけ検討しましたが、結論的には事実婚でも同性婚でも配偶者居住権の設定をすることはできないと思います。

そうだね。基本的には今回の改正は法律婚のみを対象にしたものになりそうだね。
どうして、事実婚には今回の改正が認められなさそうなのかな。裁判例はどうかな。

まず、事実婚についてですが、近年では法律婚に近い法的保障が認められている面はありますが、その一方で相続権は認められていないなど、相続分野においては、判例もその権利を認めない方向にあります。

そうだね。
事実婚でも財産分与が認められたり、婚姻関係継続状態にある場合には、法的保障が認められているところだけど、一方で相続にあたっては、法律婚に準じる扱いはされていないのが現状だね。

次に、同性婚の方ですが、日本では、同性婚自体がそもそも制度として認められておらず、そもそも適用の基礎を欠きそうです。
また、事実婚への適用がない以上、同性カップルが婚姻関係に準じるような実態を備えていても、相続にあたっては、法律婚と同じに扱われるということはないと思います。

現状はそうなるだろうね。
ただ、現在では、各自治体がパートナーシップ制度を取り入れるようになってきているから、今後の改正なども検討されるべきところだね。勉強のために、パートナーシップ制度についても学んでおくといいと思うよ。

弁護士法人デイライト法律事務所パートナーシップ制度について
今日はこれくらいにして、後日、配偶者の居住権保障についてのもう一つの改正について検討しようか。

解説&ポイント

配偶者居住権の評価方法

①賃料相当額から求める評価方法

ポイント配偶者居住権は、不動産自体を取得するわけではないので、その評価方法が問題となります。もっとも、配偶者居住権は建物を利用する権利ですので、その実態は賃借権に近いものです。そのため、配偶者居住権の評価方法としては、下記のように建物の賃料相当額を求めて、評価する方法が考えられます。
しかし、このような賃料相当額を求める方法を用いる場合には、「賃料相当額」がいくらなのかが争点になってしまします。もちろん、近隣に似たような物件が賃貸に出ている場合などは簡易的な算定も可能と思われますが、そうでない場合には、不動産鑑定士を入れて賃料相当額を算出するなどが必要となり、協議段階での簡易的な計算式としてはそぐわない可能性が高いです。

「配偶者居住権」の価額 = 建物の賃料相当額 × 存続期間 − 中間利息額(ライプニッツ係数)

②建物の固定資産税評価額から求める評価方法

では、①以外の方法として簡易的な評価方法があるかというと、それが本文中でTさんが紹介した方法です。この評価方法であれば、固定資産税評価額から求めることができるので、簡単に算定ができます。
もっとも、固定資産税評価額は、公示価格の7割と言われており、時価よりも低い場合がほとんどですので、場合によっては割戻を行ったり、固定資産税評価額に1.4をかけた額を用いたりということもあります。また、不動産業者に簡易査定をお願いして、その査定書の額を参考にするということも考えられます。例えば、当事務所では連携業者に無料で査定をお願いするということをよく行っております。

③今後の実務における評価方法について

上記②な簡易的な評価方法を用いる場合、当事者においてこの評価方法を用いることの合意があることが前提となりますので、当事者の合意がない場合には、上記①のように不動産鑑定士の調査を要することにはなります。
また、今回紹介した評価方法はあくまで改正に伴い検討部会によって提示された方法であり、このような方法を裁判所が採用するかはわかりません。今後、評価方法について、実務において様々な工夫が試みられることになるでしょう。
なお、部会の検討では、公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会が提示した意見も参考にしていますが、その意見の中ではより詳細な査定例が紹介されておりますので、興味がある方は下記をご覧ください。

敷地利用権の評価方法

配偶者居住権を設定する場合、建物を利用することができるのは当然ですが、その建物を利用することに伴い、必然的にその居住用建物が建っている敷地を利用することになります。
建物の敷地は、①被相続人所有の土地である場合、②被相続人以外の土地であり被相続人が土地を借りていた場合、③被相続人以外の土地であり土地を使用貸借していた場合、の3パターンが考えられます。

①被相続人所有の土地である場合

本文中で検討した①のパターンが最も多いと思いますが、このパターンでは、被相続人所有の居住建物を取得した相続人が土地も相続するということがほとんどでしょう。
相続人が敷地も取得した場合には、居住建物を利用することで、他の相続人の敷地も利用することになるので、敷地利用権も算出することになります。敷地利用権の算出方法も複数考えられますが、本文中で紹介した簡易的な算定方法を用いるのが良いでしょう。

②被相続人以外の土地であり被相続人が土地を借りていた場合

②のパターンも一定程度あるものと思いますが、この場合には借地権の取得となりますので、借地権の評価額を出すことになります。借地権については、「更地価格×借地権割合」で評価するのが一般的です。借地権割合については、路線価図を見ることで知ることができます。

③被相続人以外の土地であり土地を使用貸借していた場合

③のパターンはあまり多くはないですが、親族の土地を被相続人が借りていた場合などが考えられます。ただし、使用貸借の場合には、個人的な関係により無償で貸しているものになりますので、被相続人が死亡すると基本的には権利は消滅します。そのため、敷地を利用するためには、土地の所有者と交渉をして、改めて使用貸借してもらうか、賃料を支払って賃貸借することになります。

事実婚や同性婚への適用可能性

今回の改正について、事実婚や同性婚への適用可能性があるかについては、議論があるかもしれませんが、基本的には否定されます。
現在、事実婚(内縁)については、財産分与や貞操義務において判例で一定の法的保護がされているところですが、残念ながら相続においては、判例は法律婚と事実婚を厳然と区別しているというのが現状です。そのため、今回の改正についても、事実婚について適用ないし準用されるということは考えにくいです。
また、同性婚についてはそもそも日本では認められていないので、法律婚の関係に準じて今回の法改正が適用されるということは事実婚以上に考え難いでしょう。
なお、参考までに、事実婚における判例を紹介しておきます。

⑴ 最判平成19年3月8日
この判例は、「厚生年金保険の被保険者であった叔父と内縁関係にあった姪が厚生年金保険法に基づき遺族厚生年金の支給を受けることのできる配偶者に当たる」とし、厚生年金の受給者として「法律婚の配偶者」だけではなく、「内縁関係にある配偶者」も含まれるとしました。

⑵ 最決平成12年3月10日
この判例は、「内縁の夫婦の一方の死亡により内縁関係が解消した場合に、法律上の夫婦の離婚に伴う財産分与に関する民法七六八条の規定を類推適用することはできないと解するのが相当である。」とし、内縁関係にある夫婦の相続について財産分与の規定を適用することを否定しました。
一方、傍論ですが、「内縁の夫婦について、離別による内縁解消の場合に民法の財産分与の規定を類推適用することは、準婚的法律関係の保護に適するものとしてその合理性を承認し得るとしても、死亡による内縁解消のときに、相続の開始した遺産につき財産分与の法理による遺産清算の道を開くことは、相続による財産承継の構造の中に異質の契機を持ち込むもので、法の予定しないところである。また、死亡した内縁配偶者の扶養義務が遺産の負担となってその相続人に承継されると解する余地もない。」として、内縁関係の相続には財産分与の規定が類推適用できないとしても、内縁関係における財産分与においては、法律婚の財産分与の規定が類推適用できるとしています。

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