【弁護士が解説】相続法改正でなにが変わる?-配偶者居住権-Ⅰ



相続に長年注力してきた弁護士D

司法修習生Tさん

平成30年7月、弁護士のたまごである司法修習生Tさんは、弁護士Dの事務所に弁護修習に来ていた。

 

 

相続法改正を知ってる?


今日の法律相談はどうだった?

何か質問とかはあるかな?

そうですね・・・

話を聞いていて相談者の人がかわいそうだなと思いました。ご主人が亡くなった上に、会ったこともないご主人の子どもが死んでから名乗り出て来て、せっかく夫婦で貯めて来た預貯金をとられて、残るのが家だけなんて・・・

そうだね。

確かにかわいそうな相談者ではあったけど、弁護士をしていればそういった事案に直面することも少なくないから、事前に遺言を書くことをすすめるなど、弁護士ももう少し高齢者の方々に向けて啓発を行う必要があるね。
ただ、遺言を残さないで亡くなってしまった人については、どうしようもないよね。

Tさんは、今回の相談の件みたいな事態について対処できるように相続に関する改正法が成立したのを知っているかな。

その改正はつい先日のものですよね。

ニュースや新聞で見ましたが、「配偶者を優遇」という見出しで報じていたくらいしか知りません・・・

そうだよね。

相続分野は司法試験にもあまり出ないし、二回試験にもでないだろうから疎かにはなってしまうのかもしれないけれど、実務に出れば必ず出会う分野だし、今回の法改正は様々な分野が改正されたから、知っておいたほうがいいよ。
そうだな・・・

この相続分野の改正について調べて、素人にでも改正点がわかりやすいレポートを作成するのを課題にしようと思うけど、どうかな?

改正点が多いから、まずは今日の法律相談に関係する配偶者関係の改正を調べて報告してくれるかな。

はい。わかりました。

来週までにご報告できるようにまとめてきます!

 

 

配偶者居住権ってなに?


この前出していた相続法改正の課題のレポートを見たよ。今からレポートについて講評したいのだけど、良いかな。

はい。お願いします。

 

まず、いろいろな改正点に触れてくれたけど、今回の法改正で配偶者保護の目玉となるのはどの部分かな。

レポートにも書きましたが、配偶者保護の法改正の目玉としては、被相続人の配偶者が被相続人名義の居住建物に住み続けられるようにするための権利として、「配偶者居住権」の新設が挙げられます。

そうだね。簡単に説明してもらえるかな。

今回新設された配偶者居住権には、「配偶者短期居住権」「配偶者居住権」の二つがあります。

前者は、主に、遺産分割が終わるまでの期間、配偶者が短期的に居住建物を利用する権利を得ることができるように設けられたもので、現在でも判例法理で使用貸借権を当事者の意思の推認で認めていたものを明文化+修正したものといえます。

一方、後者の権利は、遺産分割にあたって、居住建物の所有権を取得する代わりに、居住建物の利用権を取得することができるようになります。

概要は、今説明してもらったとおりだけど、この制度の背景事情は知っているかな。

はい。

このような権利が新設された問題背景としては、以前先生が相談を受けた事案のように、相続の際に、みるべき遺産が居住用建物のみで、居住建物を売却しなければならなくなる状況や、居住建物を取得してしまうと、現預金をほとんど相続できず、生活費などに困るといった状況があると言われています。

このような事案で、遺言がないと、残された配偶者はその生活に困りますから、そのような事態を少しでも解消するために創設されたものといえます。

よく勉強しているね。それでは、そのような状況について、事例で考えてみようか。

配偶者居住権を取得するメリットはどこにあるのかな。どうやって、上記の問題が解消されるのだろう。

配偶者居住権を取得するメリットは、今までは、相続の際に、みるべき遺産が居住用建物のみで、居住建物を売却しなければならなくなる状況や、居住建物を取得してしまうと、現預金をほとんど相続できず、生活費などに困るといった状況であったものが、直接居住建物を取得せずにその利用権である配偶者利用権を取得することで、多くの預貯金を得ることができる点にあります。

例えば、前回先生が相談を受けた事案についても、配偶者居住権を取得して、より多くの預貯金を得るように協議をする可能性があり得ます。

そうだね。この前の事案を簡素化して考えてみようか。

例えば、被相続人の遺産は、居住建物が時価1500万円、預貯金が2000万円の場合で、相続人は配偶者と、子ども一人の二人だとし、これをケース1と呼ぼうか。

この場合に、法定相続分で分けると、どうなるかな。

 

ケース1

Zが死亡し、配偶者X、子どもYが相続人となった。

Zの遺産は、居住建物(時価1000万円)と預貯金1000万円である。

Xは、年金に頼っており、預貯金はほとんどない状態であって、自宅建物とある程度の預貯金を取得したいが、Yとの折り合いが悪く、Yは、「自分は、自宅か預貯金1000万円のどっちかはもらう」と言ってきかない。

ケース1の場合、XとYは、それぞれ相続分が2分の1ずつですので、Xは最終的に1000万円の価値分を相続できるにすぎません。そうすると、自宅をもらうか、預貯金をもらうかの二択が選択肢になるでしょう。

自宅をYと共有にするという手もありますが、折り合いが悪い二人が共有していることはどちらのためにもなりませんので、その選択肢は現実にはあまり考えられません。

結果として、現行法ではXは自宅を取得して住み続けるか、自宅をあきらめて預貯金を取得するかの選択を迫られます。

仮に、配偶者の方が、居住建物を取得するとすれば、配偶者が居住建物を取得することになり、一方子どもが預貯金1000万円を取得するという結論になりそうです。

うんうん。では、仮に、配偶者居住権の評価額が500万円だとしたら、どうかな。

配偶者居住権が500万円の評価額だとすると、配偶者が配偶者居住権を取得して、500万円の預貯金を取得することになり、子どもは居住建物自体と預貯金500万円を取得することになりそうですね。

そのとおりだ。

そうすると、配偶者が居住建物にずっと住むと考えているのであれば、ある程度の今後の生活資金も必要であろうし、配偶者居住権を取得することは選択肢の一つとなるだろうね。

D先生、選択肢の一つというか、配偶者の方は配偶者居住権を取得するに決まっていませんか・・・?

いやいや、Tさんね、それは安直すぎるよ。

配偶者居住権を取得するデメリットというか、リスクはないかな。

リスクですか・・・?

うーん・・・

配偶者居住権があれば家に住めるし、お金も多く取得できるしで、良いことだらけな気がしますが・・・

少しヒントをあげよう。

例えば、配偶者の方が、老後しばらくしたら老人ホームに入ることを考えていたり、持病があって病院に入院する可能性も高いとしたらどうだい?

えーと・・・

その場合には、配偶者の方は居住建物に住まないことになるので、配偶者居住権の意味がなくなって・・・

そのときは、誰かを住まわせて賃料をとればいいんですかね・・・

配偶者居住権の意味がなくなるところまでは確かにそうだね。

だけど、誰かを住まわせることはできるのかな・・・?

配偶者居住権は譲渡できないですし、誰かを住まわせることもできないですね。

そうだね。

正確には、居住建物の取得者の同意を得ることによって、第三者に賃貸借できる可能性はあるけど、取得者と折り合いが悪い場合には、そのような同意を得るのは難しいだろうね。

また、配偶者居住権が譲渡できないとされたのは、要綱が作成された後のことなんだ。

法律案の検討部会では、当初、配偶者が配偶者居住権を取得したのちに、居住建物から転居しなくてはならない状況となった際に、配偶者居住権を売却して生活費に充てることもできるようにと考えていたのだけど、結局は、配偶者の死亡により消滅する権利であって、そのような権利が実際に売却されることは困難であることからという理由で、配偶者居住権は売却ができない権利とされたんだよ。

そうなのですね。

だとすれば、配偶者居住権を取得したのちに、老人ホームに入って居住用建物に住む必要がなくなった場合などは、配偶者居住権を取得するよりも、居住建物自体を取得しておいて、老人ホームに入る際に売却する方が良かったということになりそうですね。

飲み込みが早いね。そのとおりだよ。

つまり、そのような転居する可能性が高い場合には、配偶者居住権よりも居住建物自体を取得する方が良い場合もあるんだ。

また、配偶者居住権を取得する場合も、その権利の消滅までの期間を短く設定することによって、配偶者居住権の評価額を下げて、取得できる預貯金を多くしたりすることも考えられるかもしれないね。

とりあえず、安直に配偶者居住権を取得する方がいい即断しない方がいいってことがわかってもらえたかな。

はい。よくわかりました。

 

 

解説&ポイント

配偶者居住権とは

平成30年7月6日に、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律案が参議院で可決されました。これにより、2年後までに改正法が公布・施行されることになります。
ポイントこの改正で一つ目玉となっているのが、配偶者保護のための「配偶者居住権」という権利の新設です。
この権利は、夫婦のうち一方が死亡した場合に、被相続人名義の財産に属した生存配偶者が住み慣れた居住建物からの退去を余儀なくされるようなケースがあるため、配偶者が居住建物に住み続けられるようにと新設されたものです。
もっとも、配偶者居住権には、二種類あり、主に遺産分割が終了するまでの間の短期のみについて居住権を認める「配偶者短期居住権」と、遺産分割に当たって居住建物自体を取得するのではなく、居住建物に居住する権利を取得する「配偶者居住権」の二つがあります。

配偶者居住権の要件

①要件
配偶者居住権を得るためには、遺言において配偶者居住権を遺贈の目的にしているときか、遺産分割において配偶者居住権を取得するものとされたときの二つのパターンがあります。
前者については、遺言も作成されているので、さほど問題はないのですが、後者は今後遺産分割の実務にも大きな影響を与えることになるでしょう。
「遺産分割において配偶者居住権を取得するものとされたとき」というのは、遺産分割協議や調停において、相続人全員で配偶者が配偶者居住権を取得するものと合意した場合か、審判によって裁判所が配偶者居住権を取得する旨を定めたときの二つの場合があります。

②審判の場合
審判というのは、裁判所の出す判決のようなものですが、審判で相続人の合意なく配偶者居住権を取得する旨を定められるのは、
「配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき」です。
要件を見てわかるように、配偶者の居住の利益を確保することと、居住建物の所有権を取得する者の不利益の程度を比較考量して、配偶者居住権を取得する旨を審判で定めることになります。
この判断は難しいですが、配偶者居住権を認めなければ、配偶者が取得する預貯金等が少なく今後の生活に困るような場合には、配偶者居住権を取得する旨の審判が出ることは十分に考えられるでしょう。
もっとも、居住建物の所有者の受ける不利益にあたっては、配偶者居住権の期間なども問題になるでしょうから、例えば存続期間を短くして不利益の程度を少なくするなど、審判時にはその存続期間も含めた判断がなされることになると思われます。

配偶者居住権の存続期間

配偶者居住権の存続期間については、原則として終身、つまり配偶者が死亡するまでとなっています。
しかし、遺産分割協議などで別段の定めをした場合には、その定めによるので、協議や審判では終身ではない配偶者居住権を取得することも可能です。
存続期間を短くした場合には、その評価額も変わってくることになります。
評価額については、第2話で詳細を紹介しますが、老人ホームに入る間のみの短い間の設定に留めたりすることも十分に選択肢となりえます。

配偶者居住権の登記

配偶者居住権は、登記をすることができ、登記をすれば居住建物の所有者以外の第三者にも「配偶者居住権を対抗することができる」ようになります。
対抗というのは法律用語で難しいのですが、要は、居住建物が売却されて第三者のものになっても、居住建物を使用収益する権利を第三者に持ち続けられるということです。
逆にいえば、登記をしていなければ、居住建物を買い受けた者に対して、配偶者は配偶者居住権を有しているといえなくなり、出ていかなければならなくなってしまうのです。
そのため、配偶者居住権を取得した場合には、早期に登記をする必要があるでしょう。

配偶者居住権の譲渡と買取請求権

配偶者居住権は、譲渡できないことが明確に条文にされていますので、譲渡はできません。
一方、配偶者が自分で居住する必要がなくなった場合には、所有者から同意を得て賃貸に出すか、または所有者に買い取ってもらうということになるでしょう。
しかし、配偶者居住権を定めるような場合には、多くが紛争になっているでしょうから、そのような同意や買取がスムースに進む場合は多くないと思います。
その場合に、法的に配偶者居住権の買取請求ができるかという問題があります。
この点について明文の規定はありませんが、認められるというのがこの法案を作成した部会の意見のようです。
しかし、明文がない以上、法律解釈の問題となってきますので、本当に買取請求権が認められるかは不明確ですし、何より荒らそうとした場合には、訴訟が必要になってきますので、そのような手間をかけることを考えると、遺産分割の際に、配偶者としても今後どの程度の期間、居住建物を使用するかを考慮して、その存続期間を定めるなどしたほうがいいでしょう。

配偶者居住権については、こちらからどうぞ。

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