連載コラム 最終回「遺言書の大事さ・・・」


14 遺産分割協議を終えて

遺産分割協議が無事に終わり、AやBは、L弁護士のもとを訪れていた。

弁護士
今回は協議がまとまって良かったですね。
男性
先生。本当にありがとうございました。寄与分は少し減額されてしまいましたが、Dからは『Zの世話をしたことに関しては感謝しております。』と言われましたし、今後長引くより良かったです。
弁護士
今後なのですが、どうでしょう。遺言書を作成してみませんか。
男性
遺言書… 私たちがですか…?
弁護士
今回、相続手続の大変さが分かっていただけたと思いますし、遺言書を作成してはいかがなと思って提案させていただきました。
男性
そうですね… 確かに大変だとは思いましたが、私は妻と子供が2人いるだけでみんな仲がいいですし、遺産もそれほどありませんから、もめることはないと思います。
女性
私のところは、子どもはいませんし、主人と二人なので、もめることはありませんよ。
弁護士
いやいや、お二人とも、それは甘いですよ。仲がいいと思っていた家族が、相続の際に争いになるということは少なくありませんし、遺産が少ない場合はより争いになりやすいとすらいえます。
男性
えっと… 遺産が少ない場合はより争いになりやすいというのはどういうことでしょうか。
弁護士
例えば、Bさんは小倉にお住いのようですけど、自宅は持ち家ですよね。固定資産税評価額はいくらですか。
男性
そうです。自宅は持ち家で、固定資産税評価額は確か… 土地建物合わせて2000万円くらいですね。
弁護士
Bさんの不動産以外の資産はどれくらいですか。
男性
お恥ずかしいですが、今回の相続でもらった額を含めてざっと1000万円程度です。
弁護士
そうですか。では、不動産を2000万円、その他の財産を1000万円として、もしBさんがお亡くなりなった場合には、相続はどうなりますかね。
男性
えっと… 妻が2分の1、子どもが4分の1ずつですかね。そうすると… 妻が1500万円、子どもたちが750万円ずつくらいですか。それがどうしたのでしょうか。
弁護士
奥様はおそらく不動産に住み続けたいと思っていますよね? そうだとすれば、不動産の価値は2000万円ですから、奥さまの相続分を500万円も上回っています。そうすると、もし争いになった場合に、相続して分ける方法としては、①不動産を売却して分けるか、②不動産を共有にするか、③奥様がお子さんたちにそれぞれ250万円ずつを支払って不動産を取得するかになります。①は、奥様は望まないでしょうね。②は、争いになったお子さんと共有になるので、その後も紛争は続くことになりますね。③は、奥様が500万円を持っていればいいですが、そうでなければ不可能な方法です。どうですか。遺言書を作成していないと、奥様が困るかもしれませんよね。
男性
確かにおっしゃるとおりですが… どうしたらよいのでしょうか。
弁護士
簡単ですよ。遺言書で、不動産を奥様に相続させる旨を書いておけばいいのです。今回、お子さんたちの遺留分は、それぞれ4分の1×2分の1なので、8分の1ですから、結果的に奥さまは4分の3までは取得できるのです。そうすると、2250万円までは取得できますから、遺言書で不動産を相続させるとしておけば、確実に奥様に不動産が行くようにできるのです。
男性
遺言書作ったほうが良さそうですね…
弁護士
私が遺言書を作成したほうが良いという意味が分かっていただけましたかね。あと、Aさんはご主人が先に亡くなった場合には、誰が相続人になるかご存知でしょうか。
女性
主人が亡くなった後ですか… 誰に財産が行くのでしょうか…
弁護士
ご両親や祖父母は亡くなられていますね。そうすると、兄弟姉妹に相続されるのです。
男性
兄弟姉妹ってまさか… DやEもですか?
弁護士
もちろんDやEは兄弟姉妹なので、法定相続人となります。ただ、片親のみ共にする兄弟姉妹は、両方の親を共にする兄弟姉妹の2分の1です。もし、B、D、Eが法定相続人だとすれば、2:1:1となるので、Bが4分の1、D及びEはそれぞれ4分の1となります。
男性
また相続手続きに巻き込まれるのは嫌だよ!!
弁護士
Bさんを相続に巻き込まない方法として、やはり遺言書を作成すれば大丈夫ですよ。しかも、兄弟姉妹には遺留分がないので、仮にAさんがBさんに全財産を相続させると書いていても、その後DやEは何も主張することができません。
男性
兄弟姉妹には、遺留分がないのですね。
女性
でも、もし今遺言書を作成して、Bに相続させると書いた場合、主人が生きていたらどうするのですか。
弁護士
遺言書には、順番は条件を付けることができるのです。例えば、ご主人が亡くなっていた場合には、Bに相続させるという遺言は可能です。
女性
そうですか… それなら遺言を作るのもありですね。
男性
僕のためにはぜひ作ってほしいよ…
弁護士
遺言書の作成の大事さを分かっていただけたと思いますが、私に遺言書の文案を作成するのをお任せいただけないでしょうか。
男性
そうですね。よろしくお願いいたします。

 

解説&ポイント

ポイント遺言書を作成したほうが良いということは、相続人調査の話に少ししましたが、ここでは、それ以外のメリットについてご説明していきます。
遺言書のメリットはインターネットで検索しても様々なメリットが出てきますが、大まかに「遺言者の意思を実現できる。」、「相続人が楽になる。」の2つに大別できます。

①遺言者の意思を実現できる

まず、①ですが、遺言者の意思を実現できることがメリットの一つとして挙げられます。遺言を遺さなければ、法律で決まっている相続人が法律で決まっている相続分で、残っている財産を分けることになります。しかし、亡くなった人の想いとしては、相続人以外の人に財産をあげたいとか、この人に沢山あげたいとか、不動産をこの人にあげたい、というようなことがあるかと思います。
それらの意思を実現するのが「遺言」です。遺言には、基本的に制限はありませんので、誰に、何を、どのくらいあげるかを決めることができます。制限がないと言っても、遺留分があるではないかと思われるかもしれませんが、遺留分権を持つ人が請求しない限りは遺言は有効であることは以前に説明したとおりです。
また、その遺言の実現を確実にするために、遺言執行者というものを決めておくのも手です。遺言執行者を決めておけば、その人が遺言を実現するための手続きをすべて行うことになり、それに反した行為は無効となりますので、遺言を執行の段階で確実にするためには遺言執行者を指定しておくことをおすすめします。
遺言執行者は、相続人でもそれ以外の誰でもなれます。法人でも遺言執行者になれますので、銀行が遺言執行者になる例もしばしば見受けられます。しかし、遺言執行者は弁護士等の法律の専門家である方が良いです。この点を説明しましょう。
遺言執行者は、就任すると辞任するためには家庭裁判所の許可の審判が必要になりますが、遺言で指定されていて就任するかは自由です。そのため、遺言者は、生前に遺言執行者に遺言執行者に指定する旨を伝え、しっかりと就任してもらうことを取り付けておく必要があります。そうであれば、遺言執行者には銀行をつけておけば、安心だと考える人がいるかもしれません。しかし、銀行でも、遺言執行者の就任を辞退することがあり、問題となっております。なぜなら、銀行は、弁護士とは異なり、争いのある事案には対応することができないからです。銀行が遺言執行者として不適切なわけではありませんが、例えば遺言が有効か無効かという法的な判断が必要な場合には、法律の専門家である弁護士でないと対応できませんし、遺言執行者を相手にした訴訟をされた場合、結局弁護士に頼むことになりますから、それならそもそも遺言執行者として弁護士を指定しておいた方が良いのです。

②相続人が楽になる

相続人は、亡くなった方の相続をするために、葬式等をしたり、沢山の手続をすることが必要になります。しかし、相続をするといっても、残された遺産を使うためには、相続人全員の同意が必要であり、勝手に金銭を使えば不法行為や不当利得となります。また、銀行等の金融機関は、相続人全員の同意があるか、遺産分割を終えている場合でないと、預貯金の解約には応じず、相続人らはお金を使うことができません。
しかし、遺言において、預貯金を相続する人を決めておいたり、割合を指定しておけば、相続人は遺言に従って銀行の預貯金口座を解約や引出しをすることができます。つまり、遺産分割が不要になるのでです。遺産分割協議は、相続人で行うものですが、筆者は、相続が始まるまで仲の良かった親族同士が争う姿を数々見てきました。その遺産分割協議が必要なくなるというのは、相続人が無駄な争いに巻き込まれないことを意味します。
また、相続の多くの手続きには戸籍が必要となります。必要な戸籍が大量に必要になることが有り、相続人の悩みの種となっているのですが、これも遺言で解消できることは以前説明したとおりです。ただし、「公正証書」遺言でなければなりませんので、ご注意下さい。

最後に、遺言者が相続人に対して、様々な要望を書いたり、なぜそのような遺言を作成したのかを記載することができ、これを「付言事項」といいます。この付言事項は、法的には意味はありません。遺言者の要望を相続人が守らなくても遺言は無効にはなりませんし、遺言を書いた理由がなくても遺言は有効です。しかし、これらの付言事項を記載することを勧めております。なぜなら、遺言では、相続人が納得できることが大事だからです。遺言は、最後の思いを遺産の分配という形で残すものですが、その分配をしようと思った背景があるはずで、それが分からなければ、相続人の間に心情的な対立ができてしまい、残された相続人が争う原因を残してしまうことになります。つまり、付言事項は、メリット①とともに、メリット②をより確実なものにするために必要なものといえます。

以上の通り、遺言書を作成するメリットは、①及び②に集約され、細かいメリットは、どちらかに振り分けることができます。
このメリットを得るために、ぜひ遺言を残していただきたいなと思います。

 

 

 

弁護士コラム一覧

なぜ弁護士に相談すべき?