連載コラム① 第7回「相続放棄ではなく、相続『分』の放棄!?」


お金

12 相続の放棄と相続分の放棄

Gは、Cの遺品を整理していたところ、住所録を発見した。

そこには、Eの名前があり、住所が書いてあったが、その横にメモ書きで2010年に〇〇施設に入所と書いてあり、携帯電話の番号も書いてあった。

Gは、2010年にはすでにCと一緒に住んでいたが、Eと交流があったとは知らなかった。しかし、Eの居場所の手がかりが分かった以上、弁護士に伝えようと思い、V弁護士に連絡をした。

そして、V弁護士はEに電話をしたところ、難聴気味なところはあり活舌も悪いものの、元気なEを確認し、事情を説明したのであった。

Eは、「今更お金も要らないし、あまりZにいい思い出はないので、相続放棄をする」と述べたものの、自分で裁判所には行くつもりはなく、相続放棄ということにしておいてくれということであった。

そのため、V弁護士としては、相続分をGに譲渡してもらえないか交渉したが、Gは知らないし、他の兄弟に譲渡するつもりもないので、相続放棄をするの一点張りであったため、L弁護士やM弁護士とも相談の上、「相続分の放棄」をしてもらうことにした。

L弁護士は、A及びBと現状の報告も兼ねて打ち合わせをすることにした。

男性
Eが見つかったんですね。それで、Eさんはなんて言ってきているのでしょうか。
弁護士
Eさんは、財産はいらないと言っています。そのため、相続分の放棄をしてもらおうと思います。
女性
相続放棄ですか。それなら聞いたことがあります。あれ… でも相続放棄って亡くなってから3か月以内しかできないと聞きましたが… 今はもう4月10日ですよ?
弁護士
いえいえ、Bさん、相続放棄ではなく、相続『分』の放棄です。それに、相続の放棄だとしても、亡くなった時からではなく、相続の開始を知った時からなので、Eさんは相続放棄をしようと思えばできるのです。ただ、Eさんとしては、裁判所に行くのも面倒だし、弁護士をつけるつもりもないということなので、相続の放棄ではなく、相続分の放棄をしてもらおうと思っているのです。
男性
えっと… 相続の放棄と相続『分』の放棄って言葉としては同じようにしか思えないのですが、何が違うのでしょうか。
弁護士
相続の放棄と相続分の放棄は、名前が似ているので確かにややこしいですね。名前は一文字しか変わらないのですが、その法律的な意味はかなり違います。
「根本的な違いとしては、相続の放棄は、そもそも相続人ではなくなるということを意味する一方、相続『分』の放棄は、相続人ではあるけれど、それぞれの共有持分権を放棄するという意味になるのです。今回の件ではどちらにしても、結論は変わらないですが、他の事例だと結論が異なってくることもあります。AさんやBさんの相続分はそれぞれ5分の1から4分の1に増えることになりますので、むしろ良かったと思います。
男性
そうなのですね。とりあえず、私たちに不利益がないのなら良かったです… あとは、GさんとDさんですね。どのような見通しでしょうか。
弁護士
GさんもDさんも、法定相続分での分割を求めてくるのは間違いないですね。法律上の相続分ですから、その点はやむを得ないにしても、寄与分については資料も提示した上でしっかりと主張していきたいと思っています。もし寄与分を全く認めないということであれば、調停を申し立てたほうがいいですね。
男性
そうですか。まだまだ時間がかかりそうですね。先生、ご迷惑おかけしますが、最後までよろしくお願いいたします。

 

解説及びポイント

ポイント相続の放棄と相続『分』の放棄とは、名前が似ているため、勘違いされやすいですが、全く異なるものです。その違いについて、方式、期限、効果という3つの観点から解説したいと思います。

方式

まず、方式についてです。「相続の放棄」というのは、方式が定められていて、家庭裁判所に相続放棄の申述という申立てをすることを必要としており、相続放棄の申述がない限りは、いくら「相続放棄をします」といっても、相続の放棄にはなりません。
一方、「相続『分』の放棄」というのは、方式がなく、ただ口頭で他の相続人に相続放棄をすると言っても良いですし、どのような形でも構いません。もっとも、放棄したことを証明するために相続放棄書を作成することが通常ですし、これがないと口座解約等の諸手続きができない可能性がありますので、注意が必要です。

期限

次に、期限ですが、「相続の放棄」には、相続の開始を知った時から3か月という厳格な期限が定まっており、例外はあるものの、死んだことを知った時から3か月以内に相続放棄の申述の申立てをしないといけません。
一方、「相続『分』の放棄」には、期限がありません。いつでもできますので、仮に10年前の相続であっても、相続分の放棄は可能です。

効果

最後に、効果ですが、「相続の放棄」の場合には、「相続の開始から相続人ではなかった」ことになります。つまり、相続とは無関係の人になるということです。
一方、「相続『分』の放棄」は、共有持分権を放棄するという意味だと考えられており、結論としては、他の相続人に相続分を譲渡したのと同じ結論となります。
この効果の違いによって、結論が異なるのは、借金などの債務がある場合と、相続人に配偶者の方がいる場合です。
まず、借金などの債務がある場合、相続の放棄で債務を引き継ぎませんが、相続分の放棄では、債務を引き継ぐことになってしまいます。なぜ放棄したのに債務を引き継ぐのかと思うかもしれませんが、前述のとおり、相続分の放棄は、相続人ではあるため、債務は負うことになるのです。
配偶者がいる場合ですが、こちらは具体的な例で考えてみましょう。

【事例1】
Yさんが亡くなり、配偶者のXさん、子どものAさんとBさんが相続人だとします。この場合の相続分は、Xさんが2分の1、AさんとBさんがそれぞれ4分の1です。
では、Bさんが「相続の放棄」をするとどうなるでしょうか。Bさんは始めからいなかったことになりますから、Xさんが2分の1、Aさんが2分の1の相続分になります。

Xの相続分:2分の1
Aの相続分:2分の1

一方、Bさんが「相続分の放棄」をしたらどうでしょうか。Bさんの相続分が、XさんとAさんに相続分の割合で分配されます。つまり、X:Aは、2:1ですから、Bさんの相続分のうち3分の2がXさんに、3分の1がAさんに移転することになるので、結論として、Xの相続分が3分の2、Aの相続分が3分の1になります。

Xの相続分:3分の2 = 2分の1 +(4分の1 × 3分の2)
Aの相続分:3分の1 = 4分の1 +(4分の1 × 3分の1)

 

【事例2】
Yさんが亡くなり、配偶者のXのさん、子どものAさんが相続人だとします。この場合の相続分は、XさんもAさんも共に2分の1となります。
では、Bさんが「相続の放棄」をするとどうなるでしょうか。Bさんは始めからいなかったことになります。そうすると、子どもが誰もいなくなるので、次の順位の人、つまり父母などの直系尊属が相続人となります。もし直系尊属の方がなくなっている場合は、兄弟姉妹が相続人となります。仮に、父親のZさんが生きていたとすると、Xが3分の2、Zが3分の1の相続分となります。

Xの相続分:3分の2
Aの相続分:3分の1

一方、Bさんが「相続分の放棄」をしたらどうでしょうか。Bさんの相続分が、Xさんに配分されます。つまり、Xさんがすべての財産を相続することになるのです。

Xの相続分:1(1分の1)

上記のとおり、相続の放棄と相続分の放棄では、効果が異なるため、結論も異なります。本文の事案では、たまたま結論が異なりませんでしたが、相続の放棄をするのか、相続分の放棄をするのかは、しっかりと弁護士に相談の上で決めるようにしましょう。

 

 

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