「非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例」の改正点について


非上場株式会社の事業承継の特例

税務署事業承継は経営者にとって、悩ましい問題の一つであり、その中で関心の高いものが節税策ではないでしょうか。

ご存知の方は少ないかもしれませんが、「非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例」(以下、「本特例」といいます)という制度があり、平成29年度税制改正により使い勝手がよくなり、事業承継の際には一度は検討すべき制度となりました。また、平成30年度税制改正により、より使いやすくなる予定ですから、検討必須の制度です。

ここでは、この制度について概要と使い勝手の良くなった点をご説明します。

 

①特例制度

本特例は、経営者が亡くなった後、後継者である相続人等が、相続又は遺贈によって、都道府県知事の認定を受けている非上場会社の株式等を取得し、その会社を経営していく場合に適用可能な特例です。

 

②適用の場合の納税猶予の割合

本特例が適用されれば、その株式等に係る課税価格の80%にあたる相続税の納税が猶予される上、一定の要件を満たせば、猶予されている税額の納付が免除されるというものです。この点については平成30年度税制改正により、納税猶予税額が相続税の「80%」から、「全額」に代わりますので、より税制の優遇が大きくなるといえます。

気を付けなければならないのは、税制改正の対象となるのは、「平成30年1月1日以降」に贈与等により取得する財産に係る贈与税又は相続税について適用することになっていますので、平成29年末日までのことについては対象外ということになります。

 

③納税猶予対象株式数

納税猶予となる対象株式数も平成30年度税制改正までは、「発行済議決権株式総数の3分の2に達するまでの株式」の取得のみが対象でしたが、平成30年度税制改正により「取得した全ての株式」が対象となる予定です。

つまり、今までは「発行済み議決権株式」なのかどうかを判断し、「その3分の2」なのかどうかを考えて制度を利用する必要がありましたが、平成30年度税制改正によって、対象の会社が発行している株式であればよくなり、この点に気を付ける必要がなくなるのです。

②及び③の影響を具体例でみる

②と③の改正は、大きな改正といえますが、あまりイメージがつかめないと思いますので、具体例で説明したいと思います。

改正までは、仮に120株の発行済議決権株式がある会社では、承継相続人がすべての株式を相続した場合、本特例の対象となるのは、3分の2ですから80株式分です(下記円グラフの黄色の部分と青の部分)。そして、これに課される課税額の80%が納税猶予されるので、実際に猶予されるのは、80株×80%=64株分となります(下記円グラフの青色の部分)。つまり、株式全体の半分強しか実際には相続税の猶予はされなかったのです。つまり、本特例を使用しなかった場合に比べて相続税が半分になるようなイメージでした。

しかし、これが平成30年税制改正により、対象株式がすべてになり、納税猶予割合が100%になりますので、株式にかかる相続税はすべて納税猶予されることになるのです。つまり、相続時に承継相続人にかかる金銭負担は0ということになります。

数字で見ていただくと、改正がどれほど大きなものか理解いただけたと思います。株式を相続した場合には、株式は手元にあっても、相続税を支払う金銭がないということがしばしば生じていましたので、負担が0というのは事業承継時のそういった悩みを解消してくれることになります。

④対象者の拡大

平成30年度税制改正前までは、1人の経営者から1人の経営者に引き継ぐことが前提の制度となっており、先代経営者が保有していた株式を一人の後継者に承継させる分のみが納税猶予の対象でした。

しかし、先代経営者だけではなく、その配偶者や兄弟、従業員などが株式を保有していることは少なくありませんから、後継者が先代経営者以外の人から株式を贈与ないし相続を受けた場合を排除する理由はなく、平成30年度税制改正では、先代経営者以外の株式保有者から後継者への株式の承継についても本特例の対象とされることになったのです。

一方、後継者も1人とは限らず、複数人で会社の後継者となるということはあり得ることです。そのため、平成30年度税制改正においては、後継者が複数人(3人まで)の場合も本特例の対象とすることになりました。もっとも、後継者というのは、代表権を有する者であり、議決権割合の10%以上は保有している者に限られてはいます。

 

⑤雇用確保要件の緩和

取消しのリスクとして、申告期限度5年間平均で相続時又は贈与時の常時使用従業員数の8割を切った場合、特例の適用が取り消されるという厳しい雇用確保要件がありました。

この要件は大変厳しいもので、5人未満の従業員数の場合には、1人でも減ると要件を満たさなくなるというものでした。要件を満たさなかった場合、その時点江猶予された税額を全額納付しなくてはいけないという厳しいものでした。

しかし、平成29年度税制改正により、相続時又は贈与時の常時使用従業員数に8割をかけて端数が出た場合の計算方法が、切り上げではなく、切り捨てになりました。

些細な改正に思えるかもしれませんが、改正前は5人未満の場合には1人でも従業員が減ると雇用確保要件を満たさなくなっていたところ、改正後は、5人未満でも1人の従業員の減少であれば要件を満たすことになったのです。

これに加えて、平成30年度税制改正により、この要件がかなり緩和されました。上記の5年間の雇用平均が8割を維持することが求められることは変わっていないのですが、仮に8割を切った場合でも、当該要件を満たせない理由を記載した書類を都道府県に提出すれば、猶予税額を納付しなくても良くなったのです。ただし、その理由が、経営状況の悪化である場合や正当なものと認められない場合には、認定支援機関からの指導及び助言を受けることにはなります。

この点もイメージしづらいと思いますので、図を用いて説明します。

事例1

事業承継時に4人の会社があり、事業承継後に、1年目から4年目までは頑張って雇用を維持していたが、5年目に3人となってしまったと仮定します。

この会社の雇用確保要件は、以下のとおりとなります。

平成29年改正前:4人 × 80% = 3.2人 → 切り上げて4人
平成29年改正後:4人 × 80% = 3.2人 → 切り捨てて3人

つまり、事例1の場合には、5年間の平均が3.8であるため、平成29年改正前では雇用確保要件の4人を満たさずに、猶予が取り消されていたのです。しかし、平成29年改正後では、雇用確保要件の基準は3人となったので、猶予は取り消されないのです。

 

事例2

事業承継時に10人の会社があり、事業承継後に、1年目は雇用を確保していたものの2年目から5年目まで徐々に従業員が減ってしまったと仮定します。

この会社の雇用確保要件は、以下のとおりとなります。

平成30年改正前:10人 × 80% = 8人
平成30年改正後:10人 × 80% = 8人

事例2の場合、雇用確保要件は平成30年度税制改正の前後で変わりませんので、雇用要件を満たさないということになります。そして、平成30年度税制改正前の場合には、雇用要件を満たせなかった時点で納税の猶予が取り消されてしまうことになっていました。しかし、平成30年度税制改正によって、雇用を維持できなかったことの報告を都道府県にしさえすれば、納税の猶予を取り消されなくなったのです。

 

⑥災害時の要件の緩和

また、平成29年度税制改正によって災害等の被災者が本特例の適用を受ける場合に、雇用要件が緩和されることになりましたので、災害があって雇用が確保できなくなった場合にも、本特例の適用の取消しをされるリスクが下がったといえます(要件緩和についての詳細は割愛します)。

 

⑦相続時精算課税制度の併用

さらに、平成29年度税制改正により、贈与税の特例の場合には、相続時精算課税制度が併用できることになりました。これにより、仮に取り消されたとしても、高額の贈与税を払わなければならなくなるリスクが減りました。

また、相続時精算課税制度は、「60歳以上の父母又は祖父母から、20歳以上の直系卑属(子どもや孫)に対してした贈与」が対象ですが、平成30年度税制改正により、本特例の適用をする際には、「60歳以上の贈与者から20歳以上の後継者に対してした贈与」へと対象が拡充されることになっています。

つまり、第三者(例えば従業員)や叔父さんなどの親族から株式の贈与を受ける際には、相続時精算課税は用いることができなかったため、猶予の取消しを受けた場合のリスクが高かったものの、平成30年度税制改正によってその点も改善されたということです。

 

 

まとめ

税理士以上に説明したとおり、大変メリットがある税制なので、事業承継を行うにあたって検討すべき制度と言えるのですが、平成21年度の税制改正時に創設されて以来、本特例はあまり使われてきませんでした。

利用が進んでいなかったのは、本特例の取消しの可能性があり、特に贈与税の場合には、税率が非常に高いので、取り消された場合には非常に高額な税金が課されるおそれがあったからです。

しかし、上記で説明したように平成29年度及び平成30年度税制改正により、本特例はかなり使いやすくなったといえますし、今回説明していませんが経営環境変化に応じた減免制度が創設されるなどの改正点もあり、今後ますます事業承継を考える際には検討していただきたい制度となりました。

当事務所では、顧問先に向けて事業承継についてアドバイスを行っておりますので、事業承継でお悩みの経営者の方は一度ご相談ください。

 

 

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