連載コラム① 第4回「法律事務所からの手紙」


連載コラム解説図

7 許せない

「法律事務所から何か来ているよ」

Dの夫であるRは、少し慌てながら、L法律事務所から来た通知をDに手渡した。

女性
法律事務所?私に? なんだろう…。何も覚えがないけど…

Dは、何も悪いことはしてないと思うけど…と考えつつ、おそるおそる通知を開けると、中身には「ご通知」という紙が一枚入っていた。目を通すと、ずっと会っていないお父さんが亡くなったという知らせとともに、何やら寄与分とか書いてあった。面食らってしまったDは、Rに通知を返した。

男性
なんだこれ!! これってキミのお父さんのことだよね? この通知人はお父さんの後妻さんのお子さんたちなんだろうけど、随分身勝手なことが書いてあるじゃないか。『相続放棄をしてもらえないか』だってよ。お父さんに色々してもらったAやBが、何もしてもらえなかったキミに対してこんなこと言える立場じゃないだろう。許せないよ!
女性
そうかな…?(別にお父さんのことはでどうでもいいんだけど… 別に今更財産もいらないし…)
男性
そうだよ。財産からすれば、5分の1の400万円くらいもらえるはずなのに、寄与分とかなんとかよくわからないことを並べ立てて、相続放棄をしてもらえないかなんてあり得ない!!
女性
返事はまたゆっくり考えるわ。そういえば、CやEとは子どもの頃に離れてから全く連絡をとっていないけど、元気にしているのかな。
男性
この機会に兄弟とも会えるといいね。ただ、とりあえず通知への返事をどうするか考えないと。知り合いに弁護士がいるから、相談してみようよ。

Dは、面倒なことに巻き込まれるのは嫌だと考えつつも、Rの意見も無視できず、不安を抱えながらRの知り合いの弁護士事務所に行くことにした。ただ、それ以上にずっと会っていない兄弟のC及びEがどうしているかも心配であった。

 

 

8 もらっていたものは考慮されないの?

DとRは、M弁護士のもとに相談に行き、L弁護士がAやBに話したことと同じような内容の説明を受けた。

男性
寄与分とかについてはわかりましたけど、Dはお父さんに何もしてもらっていないのに、お父さんに十分に養育してもらったA及びBが、相続でもお金をもらおうなんて変じゃないですか!?
弁護士
そうですね。確かにDさんのお気持ちとしては、不公平な感じがしますよね。民法では、その点を考慮するものとして『特別受益』というものがあります。条文では、「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与」となっていますが、分かりやすくするために『生前贈与』と考えてください。
男性
(Mの話をさえぎるように)そうすると、AやBはすでに養育費をたくさんもらっているわけですから、相続分なんてないですよね。
弁護士
いえいえ、最後まで聞いてくださいね。生前贈与とはいっても、子どもに対する扶養のための費用は基本的には特別受益とはなりません。特別受益の典型例としては、不動産の購入の際に頭金を出してあげたとか、車を買う費用を出してあげたとかです。また、学費も養育の費用ですが、一部のお子さんだけが大学に行かせてもらっている場合には、大学の費用は特別受益になる可能性はあります。
男性
…そうですか。こちらは、AやBが何をもらっているかなんてわかりませんから、その点は難しそうですね。
弁護士
そうでもないですよ。あちらにも弁護士がついていますし、大学には行っていないのか、特別受益となるような贈与を受けたことはないのかを聞いてみてもいいと思います。逆に、Dさんがもらったものはないですかね。
男性
大学の費用だってお義母さんが出していたんですから、Dがもらったものなんてないですよ。
女性
(小さな声で)いや… 結婚式費用として100万円をもらっているけど…
男性
そういえば確かに結婚式費用として100万円もらったな… 忘れていた… それが特別受益に当たるとすれば、Dがもらえる分が減るわけか…
弁護士
結婚式費用ですか。結婚式費用は、特別受益に該当しないと考えられているので、大丈夫ですよ。
女性
え、そうなんですか? 結婚式費用は『婚姻のための贈与』ではないのですか?
弁護士
そうですね。婚姻のための贈与にも思えるのですが、結婚式の費用というのは、親自身のために支出していると考えられており、結婚式費用は特別受益とは考えられていないのです。まぁ少し古い考え方のような気もしますが、家族のための式みたいなイメージでしょうね。
女性
そうなんですね。安心しました。
男性
やっぱり相続は分からないことだらけですね。先生にお任せしますので、よろしくお願いいたします。

Mの話を聞いたRは、Dの意思を確認することもないまま、M弁護士へと依頼を決めた。

Dも、別にどっちでも良かったのでRの話に合わせて、そのままM弁護士へと依頼をすることになった。

M弁護士は、数日後、L弁護士に受任の通知とともにDの要望を伝えた。

解説&ポイント

ポイント相続の事案では、しばしば「特別受益」が問題となります。特別受益とは、「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与」のことであり、平たく言ってしまえば「生前贈与」のことです。実務でもしばしば問題となるのが、自動車や不動産の購入費援助金であったり、結婚式費用などです。

自動車や不動産を購入するための費用として亡くなった人から金銭を受け取った場合には、特別受益に該当します。しかし、結婚式費用は特別受益に外としないと考えられています。結婚式費用は「婚姻のための贈与」と考えるのが自然のような気がしますし、DやRのように疑問を持たれる方も多いと思います。しかし、少なくとも実務では、結婚式のための費用というのは、支出した親自身のための費用と考えられており、「贈与」ではないと考えられているのです。少し古い考え方のような気もしますが、結婚式を「家」同士の式として捉えているのだと思われます。

もっとも、実質的には結婚式費用を上回るような場合には、特別受益と認定される可能性は十分にあります。例えば、結婚式費用として500万円を渡しているような場合で、実際に結婚式費用として支出したのが300万円だとすれば、少なくとも差額の200万円については、特別受益と考えて差し支えないでしょう。名目ではなく、実質を見る必要があるのです。

特別受益をもらった場合の計算については、遺産に特別受益の額を加えて、相続分を算定し、特別受益分は先にもらっていると考えるのです。文章では分かりづらいので、具体的な例でみてみましょう。

例えば、相続人が本件と同じで、遺産が1000万円、特別受益がDの受け取った100万円のみだとしましょう。各相続人が現実にもらえる額(具体的相続分と言います)は、以下のとおりとなります。

遺産 + 特別受益 = 1100万円
各相続人の相続分 = 1100万円 ÷ 5 = 220万円
(具体的相続分)
A、B、C、E = 220万円
D = 220万円 - 特別受益100万円 = 120万円

特別受益のあるDだけ、相続の際にもらえる額が少なくなっていますね。しかし、総額でみると、全員が公平にもらっていることがわかります。このように、相続人間の公平を図るために、特別受益というものが民法に定められているのです。

 

 

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