連載コラム① 第2回「長い戦いの幕開け」


時計

4 長い戦いの幕開け

1か月後の2月14日、A及びBのもとに、Lから「やはり他の相続人がいました。」との連絡があり、再度事務所で話をすることになった。

弁護士
1か月ぶりですね。相続人調査をしましたが、やはりお父様には前妻の方がおり、その前妻の方との間に3人のお子さんがいるそうです。
男性
え!! 3人もですか!?(声をそろえてびっくりする二人)
弁護士
はい。C、D、Eの3名で、全員まだご存命のようです。戸籍の附票も取得しましたので、すでに住んでいる場所も分かっております。
男性
戸籍の附票…? なんですかそれ。
弁護士
戸籍の附票というのは、住民票のように住所歴が書かれているものです。現在、Cさんは東京に、Dさんは仙台に、Eさんは福岡市内にいらっしゃるみたいですね。
男性
3人とも全員ばらばらのところに住んでいるのですね。仙台って東北か… 遠いですね。話し合いも難しそうだな…。どうしたらいいのでしょうか。
弁護士
今後については、今からお話ししますが、基本的には相続人全員とお話をして、遺産分割協議書を作成しないと、銀行の手続きもできませんし、不動産の名義を変えることもできません。
男性
そうなんですか…。でも、話すと言っても、C、D、Eさんとは面識もないですし、何より遠方にいるわけですから… 電話でもしたらいいんですかね。あ、電話番号がわからないのか… 先生、どうしたらいいのでしょうか?
弁護士
そうですね。ご自身でお手紙を書いて連絡をとる方法もありますが、面識もないでしょうから、ご依頼を頂いて、私が代理人として交渉するほうがいいのではないかと思います。その前に、今後の流れについてご説明したいのですが、よろしいでしょうか。
男性
あ、はい。よろしくお願いいたします。
弁護士
まず確認ですが、遺言書はないということでいいのですよね。
男性
はい。遺言書はないと思います。
弁護士
家の中を探してみましたかね。もしかしたら公正証書遺言があるかもしれないので、公証役場に確認してみるといいですよ。
男性
自宅が散らかっていて、まだすべての遺品整理ができていないんですよ…。少し探してみますね。公正証書…遺言っていうのは、なんですかね?
弁護士
公正証書遺言というのは、公証役場で公証人の目の前で作成をされた遺言書のことです。これは、公証役場に保管されており、公証役場で照会すれば、公正証書遺言があるかどうかを確認してくれます。ただ、公正証書遺言があった場合でも、その内容を見るためには作成した公証役場に行く必要があります。遺言があると、遺産分割も変わってきますので、少し家の中を探してみてください。

また、今後の流れですが、私がご依頼を受けた場合には、他の相続人に書面で連絡をしまして、協議をします。

協議でまとまらない場合には、裁判所を用いた『調停』という手続きに移行します。調停は、裁判所を用いた手続きですが、裁判とは違って話し合いです。

ただ、調停でもまとまらない場合には、審判という裁判所が分割を決めてくれる手続きに移行しますので、最終的に話し合いがまとまらないと、法律的に裁判所が決めてしまうことになります。調停などの細かい説明は、協議がまとまらなかった際にしますね。

男性
すごい大変そうですね… なるべくなら裁判所には行きたくないですね… どのくらいの期間がかかるのでしょうか?あと、裁判所はどこの裁判所になるのでしょう?
弁護士
期間は、協議で2~3か月くらいですね。その後、調停に移行した場合には、平均すると1年くらいはかかりますね。裁判所の場所は、他の相続人の住所地になるので、今回は福岡でいいでしょうけど、協議次第では、他の裁判所に申し立てたほうがいいかもしれません。ただ、遠方の裁判所の場合には、電話会議システムを用いて、電話で調停に参加できますので、ご安心ください。
男性
わかりました。ちなみに相続分ってどのくらいですか。全員均等なのですかね…
弁護士
そうですね。お二人と前妻のお子さん3人の合計5人ということになるので、一人5分の1が法定相続分ということになります。もし不動産の価値が1000万円だとすれば、預貯金とあわせて2000万円の遺産があることになりますから、一人400万円の相続分になりますね。
男性
一人400万円ということは、私たち二人あわせて800万円なのですね… どうにか相続放棄してもらうようには言えないですかね…
弁護士
相手が応じてくれれば、相続放棄をしてもらったりすることはできますが、相手がいることなのでなんともいえませんね…。最終的には800万円しか取得できないということも有りえますので、その点は覚悟しておいてくださいね。
男性
そうですよね。先生におまかせします。よろしくお願いいたします。

遺産分割までの流れについて、遺産分割協議、遺産分割調停、遺産分割審判があることを聞いたA及びBは、自分では他の相続人と話し合うのは難しいと考え、弁護士Lに依頼することにした。

 

解説&ポイント

ポイント戸籍を取得して相続人調査を行うと、前妻のお子さんとか、養子縁組をしていた人など思いもかけない相続人がいることがあります。このような場合、住所や電話番号などの連絡先を知っていることはほとんどないでしょう。そのときは、会話にも有りましたが、住民票又は戸籍の附票をとることで相続人の住所を知ることができますので、その住所にお手紙等を送って遺産分割協議をすることになるのです。

ずっと連絡を取っていなかったような人に相続財産を渡す必要があるのか、という方がいらっしゃいますが、相続人が他にいる場合には銀行や登記所は一切手続をしてくれません。おさらいになりますが、法定相続人を一人でも欠いた遺産分割協議は無効となりますので、相続人が判明した場合には、必ず全員で話し合うようにして下さい。

なお、被相続人が亡くなった後に、被相続人の預貯金から勝手に引き出しているケースが見受けられますが、その行為自体が不法行為又は不当利得となりますので、そのお金に利息をつけて返さなくてはいけなくなる可能性が生じるため、注意が必要です。

 

 

5 遺言があった!!

女性
遺言書があったわよ!!

亡くなった父の家の遺品を整理していたAは、声を上げた。

男性
遺言書があったの? 見せて見せて。
女性
これよ。『遺言書』って書いてあって、私たちに『財産を半分ずつ相続させる』って書いてあるわ!!
男性
お、本当だ! 先生に連絡しよう。

Bは、喜んでL弁護士に電話した。

男性
先生、先生! 父の遺言書が出てきましたよ! 私とAに『財産を半分ずつ相続させる』って書いてありました。これで他の相続人と協議しなくても問題ないですよね?
弁護士
Bさん、落ち着いてください。遺言書があったということですが、それは自筆の遺言書ですか?
男性
えぇ、そうですけど…(Lの問いに不穏な空気を感じ、声のトーンが落ちる)
弁護士
自筆ですね。すべて自筆で書いてありますか。日付と署名押印はありますかね。
男性
ええっと… 全部自筆で書いてありますね。日付は… あります。署名押印は… 署名はありますけど、押印はなさそうです… 押印がないとだめですか…? ちゃんと『遺言書』って書いてありますよ?
弁護士
残念ですが… 押印がないと、遺言書は無効です。遺言書は、その方式が厳格に法律に定められており、一つでも欠けると無効になってしまうんですよ…
男性
そんな… これで相続も終わりだと思ったのに…
弁護士
仮に、遺言書が有効だとしても、他の相続人にも『遺留分』という最低限の相続分みたいなものがあるので、すべての財産をAさんやBさんがもらえるかはわからないのです。今回は、遺言が無効なので、関係ないですが…
男性
私が代わりに押印してはだめですよね…?
弁護士
だめです。私文書偽造になりますよ。そうすると、刑事罰も科されますし、欠格事由というものにもあたるので、相続人としての地位も失うことになります。気持ちはわかりますが、絶対にしないでくださいね。
男性
はい。申し訳ありません。

A及びBは、ぬか喜びだったことが分かり、遺品整理を続ける気力もなくなって、その日の遺品整理は止めて家に帰った。

 

解説&ポイント

ポイント遺言は、その方式が厳格に定められており、要件を一つでも欠いていると無効となってしまいます。

まず、方式について、自筆証書遺言の場合には特に注意が必要です。すべての文字を自筆で書き、日付を年月日で記載し、署名押印をしないといけません。例えば、日付について年月はあるものの、日がないものはそれだけで無効となりますし、署名だけのものや、押印だけのものも無効となります。最近では、花押が押印の代わりに書かれている場合には、遺言は有効かどうかということが最高裁まで争われましたが、結論として最高裁は、押印の代わりに花押が書かれている場合には、「無効」という判断をしました。

しかし、押印がない場合や日付が明確に書かれていない場合でも、必ず無効となるわけではありません。例えば、押印がない遺言書は原則として無効とされていますが、過去には押印のない遺言を有効とした最高裁判例もあります。もっとも、元外国人であったという特殊な事案ですので、押印は必ずしたほうがよいです。

一方、日付についても、文書全体からわかるような場合には有効とされます。例えば、「平成20年1月」としか書いていないものの、文章の中に、「母の命日にこの遺言を遺す」と書いてあるとします。そして、母の命日が1月8日だとすれば、遺言全体からは平成20年1月8日に書かれたものだと判断できますので、日付の要件は満たされることになると考えられるのです。

遺言については、厳格な方式を求めていますが、全体からみて要件が満たされているという場合もありえますので、諦めずに弁護士に相談しに行くことをおすすめします。

 

 

これまでのストーリー

  
  
  

弁護士コラム一覧

なぜ弁護士に相談すべき?